研究課題/領域番号 |
21K13566
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大野 美喜子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (80715730)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 傷害予防教育 / エンパワメント / AI |
研究実績の概要 |
本研究は,子どもの傷害を予防するための保護者の予防行動を支援するため,次の4機能を持ったオンライン診療システムを開発することを目的とする.具体的な4機能は,1.問診票の回答に応じて,予測される事故リスクと予防策を提示する機能,2.傷害予防講座の実装機能,3.予防行動実践にあたって保護者が直面する心理的・物理的バリアの共有機能,4.バリアを打破するためのアイディア共有機能の4つである.今年度は,1と2の実装に向け研究を進めた.1については,東京消防庁から提供していただいた平成27年から令和元年の5年間に家庭内で起きた事故に関連する救急搬送データと,東京都立小児総合医療センターが主体となり実施している傷害サーベイランスのデータを分析し,事故の典型的なパターンを把握し,問診票の作成を進めた.問診票は,子どもの傷害予防の専門家や子どもを持つ保護者にもご協力いただきながら,修正を進めている.2に関しては,保護者がスマートフォンなどで自宅の様子を映すと,映っている画像に対して傷害リスクを認識し,事故事例や対策法などを提示できるシステムを開発し,その有効性の検証を行った.その結果,保護者がそれまで気づかなかったリスクを気付くきっかけになるなど,傷害予防ための教育効果が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子どもの事故のデータ分析,システム開発も順調に進んでいる.データ分析に関しては,東京消防庁が行う「都民生活事故データのオープンデータ化」制度を活用することで,個人情報の問題がおこらないように配慮されたデータをすばやく入手することができた.システム開発に関しては,本研究に参画してくださる保護者の方との連携体制もでき,本研究の目的,目指す姿,実装してほしい機能などの意見なども出された.実際に開発途中のシステムも使ってみていただき,システムが提案する予防行動の優先順位が分かるようにしてほしい,システムが示したリスクのチェックリストが欲しい,対策を実施すると褒めてくれる仕組みが欲しいなどのコメントもあり,今後,システム改善に向けたアイディアも得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず第1に,問診票を完成させ,実際に保護者の方に回答してもらいながら,問診票自体の有効性を検討する.第2に,開発システムで認識できる事故に関係する製品の数を増やす.具体的には,東京消防庁の救急搬送データおよび傷害サーベイランスのデータをもとに,認識すべきモノを整理する.次に,物体認識技術の精度をあげるため,学習のための画像データを収集する.第3に,保護者が予防行動をしない/できない理由および保護者の感じるバリアを乗り越えるためのアイディアに関するデータを収集し,開発システムに反映させる.これは,定期的に開催している保護者を対象としたオンライン傷害予防セミナーの場において,本研究が軸としているフレイレの教育論に基づき,保護者の予防に対する思いや実践に関連する心理的・物理的バリアと,予防行動に対する促進因子を「対話」を通して明らかにする.また,開発システムの有効性の評価軸に関しても,保護者と連携ながら検討を進める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度には,国際学会に参加予定であったが,新型コロナウイルスの影響によりオンライン開催となり,海外旅費が不要になったこと,システム開発の補助員などを雇用しなかったことなどが,予算使用計画に変更が生じた主な原因であるが,今年度,保護者から得られたコメントなどをもとに,改善点などが明確になったため,システムで認識できる物体数の増加,表示機能の改善などを実施予定である.また,問診票のデザインなども実施する.
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