研究課題/領域番号 |
21K13587
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上ヶ谷 友佑 広島大学, 附属福山中学校, 教諭 (80813071)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 数学教育 / 推論主義 / 規範 / 授業実践論 |
研究実績の概要 |
数学教育研究においては,近年,数学という学問や数学の授業に対して生徒が抱いている多種多様な規範が概念形成にもたらす功罪を解明できるとして,推論主義と呼ばれる哲学に期待が高まっている.しかし,推論主義に基づく現状の数学教育研究は,大人の推論をモデルにしているという問題を抱えている.つまり,生徒達が大人のように合理的に振る舞っていると仮定してしまっている.この問いに正面から取り組むためには,意図的にデザインされた授業内での生徒達の行動を分析するという実験的手法が必要である.そこで本研究は,次の学術的問いの探究を研究目的に据える.つまり,数学の授業において生徒達は,どのようにして大人ないしは数学の専門家の有する規範に即した合理的な数学的推論を身につけていくのか? 数学の授業とは,数学教育研究と哲学研究の重要課題が同時に具現化される場面であり,本研究はこの点に迫る. 令和3年度は,高校生を対象とした教授実験を行うのに先立ち,成人数名を対象とした模擬授業で負荷テストを行う予定であった.しかし,新型コロナウィルス感染症対策の観点から,共有物を減らして実験を行う必要があると判断し,ウェアラブルカメラの身体装着に伴う負荷テストは中止した.そこで今年度は,代わりに,生徒達が身体装着しなくとも生徒達目線での活動の様子を追いかけるためのデータ収集の方法を開発した. また,推論主義に基づく授業デザインの原理の開発を進め,授業実践を試験的に何件か進めた.それらの授業は,ウェアラブルカメラの代替措置を講じてデータ収集を行った.なお,試験的に実施した授業は,複数の観点からの分析に耐えるものであった.実施した授業分析の一部については,国際誌に査読付き論文として掲載された.この業績は,推論主義の観点からの分析にあたっても活かされる見込みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
負荷テストの実施が新型コロナウィルス感染症対策の一環で不要となったため,負荷テストを通じたデータ収集はできなかった.しかし,負荷テストが不要な,身体的負担の少ない形でのデータ収集方法が開発できたので,代わりにその方法で教授実験を繰り返すことができた.総合的に見て,順調に進展していると言える. また,推論主義に基づいた授業実践や授業分析の方法を理論的に検討し,その一部については成果発表をすることができた.実践してみて,推論主義の視点から分析するよりも効果的な分析をすることができた場合については,副次的な研究成果としてそれらを公表することもできた.
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今後の研究の推進方策 |
推論主義の視座からの授業分析は,とりわけ生徒達との「誤った判断」がどのような規範に基づいて生じているのかを明らかにするために有効であることがわかった.このことを逆手にとれば,どのような規範からどのような誤りが生じるかを予測することができ,生徒達の誤答を活かした授業づくりを行うための示唆が得られると見込まれる. この結論の妥当性を高めるため,今後も継続して授業実践とデータ分析を繰り返し行っていく.主たる研究成果としては,誤答を活かす授業づくりという観点になるが,同じ授業を分析の観点を変えることで異なる示唆も引き出せることが見込まれる.推論主義についての理論的検討を今後も一層深めることで,推論主義の視座がどういうときに有効であるのかについても明確にできると考える. 研究代表者が,これまで,計量テキスト分析と推論主義の親和性について研究してきた経緯もあるので,計量テキスト分析も必要に応じて相補的に利用することで,より分析が深まると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症対策に伴って,調達が必要な機材が変更になった.しかしながら,感染症対策を講じた新しいデータ収集方法を用いることで,授業分析が一層捗るようになった.分析される授業データが増えるため,そのデータをテキスト化したり翻訳したりする作業の専門業者への委託費が増えることが見込まれ,次年度使用額はそれらの費用として使用される計画である.
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