研究課題/領域番号 |
21K13613
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
村尾 愛美 東京学芸大学, 教育学研究科, 研究員 (80792415)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 知的障害 / 格助詞 / 動詞 / 指導法 |
研究実績の概要 |
従来の知見から,知的障害児が格助詞の使用に困難さを示すことが示唆されている 。しかし,困難さの特徴とそれに関わる要因は十分に明らかになっていない。そのため,格助詞の指導では,根拠に基づく指導がなされているとはいえない状況である。このことを踏まえると,知的障害児の格助詞の困難さの特徴とその要因を明らかにすることは,教育及び臨床上,喫緊の課題である。本研究は,動詞の性質を踏まえた言語課題を用いて,知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用の特徴とその要因を明らかにすることを目的とする。さらに,その結果を踏まえた指導法の提案を目指す。 本研究では,知的障害児と定型発達児を対象として,【研究1】知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用と動詞項構造との関係,【研究2-1】知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用と受動文との関係及び【研究2-2】状態動詞文との関係を検討する計画である。 令和3年度は,まず,予備的検討として,知的障害児を対象に実施した格助詞挿入課題の反応の特徴を分析した。その結果,格助詞の誤用において,文の可逆性または語順の影響を強く受ける対象児が存在すること,基本語順文の格配列「が・を」が多く見られること,目標とする格助詞「が」「を」以外の「に」「で」「と」を挿入する反応が見られることが明らかになった。この結果については,東京学芸大学紀要総合教育科学系第73集で発表した。次に,【研究1】について,知的障害児を対象として,モデリング法を用いた線画説明課題を実施し,動詞項構造が保たれているかどうかを検討した結果,対象とした知的障害児において,動詞項構造は保たれている可能性が示唆された。この結果について,第48回日本コミュニケーション障害学会学術講演会で発表することが確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和3年度は,新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け,知的障害児及び定型発達児を対象とした言語課題の実施に大幅な遅れが生じた。そのため,本研究は遅れていると判断した。進捗状況は以下の通りである。 本研究は,令和3年度の前半で【研究1】知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用と動詞項構造との関係を分析し,令和3年度の後半から令和4年度の前半にかけて【研究2-1】知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用と受動文との関係の分析,【研究2-2】知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用と状態動詞文との関係の分析を行い,最後に,研究1,2の結果をまとめ,格助詞の指導法の提案を行う予定であった。 令和3年度は,上述の理由から対面での言語課題の実施に困難が生じたため,まず,予備的検討で得たデータを分析し,知的障害児の格助詞「が」「を」の誤用の特徴を検討した。次に,【研究1】について,特別支援学校中学部・高等部に在籍する知的障害児を対象として,モデリング法を用いた線画説明課題を行い,対象児の発話における,動詞と項,格助詞の有無および正誤を分析した。一方,定型発達児のデータ収集は実施することができなかった。 現在,【研究2】の準備とともに,定型発達児のデータ収集を行う準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,令和4年度は,まず,【研究2】の言語課題の修正及び予備実験を行い,【研究2】の知的障害児のデータを収集する。研究の進捗状況が遅れていることを踏まえると,【研究2】において,受動文と状態動詞文を分けて検討するのではなく,一つの課題で両方を検討できるよう課題を修正する必要があると思われた。また,対面での課題の実施が令和3年度と同等以上に困難であった場合を想定し,本研究の目的である知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用の特徴とその要因を明らかにするためには,知的障害児のデータを優先的に収集すべきだと考えた。さらに,知的障害児の精神年齢または語い年齢を踏まえて統制群である定型発達児の年齢を決定することも知的障害児のデータを優先的に収集する理由の一つである。 知的障害児のデータ収集を一通り終えた後,【研究1】及び【研究2】の定型発達児のデータを収集する。最後に,研究1,2の結果をまとめる。 なお,令和3年度同様,対面での課題実施や対象児の確保が計画通り進まなかった場合は,TV会議システムを利用する,文字を挿入する課題へ変更し紙面でのやりとりとするなどの対策を講じる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け,定型発達児を対象としたデータ収集にかかる人件費・謝金が予定通りの支出とならなかった。また,同様の理由で,成果発表のための学会発表にかかる旅費についても支出がなかった。これらの理由から,次年度使用額が生じた。 したがって,令和3年度に生じた次年度使用額は,令和4年度分として請求した助成金と合わせて,令和3年度中に行う予定であった定型発達児のデータ収集にかかる謝金・人件費,成果発表のための旅費に使用する計画である。
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