本研究では,動詞の性質を踏まえた言語課題を用いて,知的障害児の格助詞「が」「を」「に」の誤用の特徴とその要因を明らかにすることを目的とした。 1年目は,予備的検討として,知的障害児を対象に実施した格助詞挿入課題の反応の特徴を分析した。その結果,文の可逆性の影響を強く受ける対象児と語順の影響を強く受ける対象児のそれぞれが存在することが示された。この結果から,知的障害児を対象として格助詞「が」「を」を含む文を用いた指導を行う場合は,刺激文の種類に留意する必要があることを指摘した。この成果については,東京学芸大学紀要総合教育科学系第73集で発表した。次に,知的障害児を対象として,線画説明課題を実施し,動詞項構造が保たれているかどうかを検討した。その結果,対象とした知的障害児において,動詞項構造は保たれている可能性が示唆された。この結果は,第48回日本コミュニケーション障害学会学術講演会で発表した。2年目は,知的障害児の対象児数を増やし,語い年齢で統制した定型発達児との比較を行った。その結果,項の産出力については,知的障害児と定型発達児は同程度であったが,格助詞の使用においては,知的障害児は意味役割の影響を強く受ける可能性が示唆された。この結果は,第49回日本コミュニケーション障害学会学術講演会で発表することが確定している。また,格助詞の使用の困難さにかかわる基礎的なデータの収集を目的として,定型発達児を対象に,状態動詞文,可能動詞文,受動文を用いた格助詞挿入課題を実施した。その結果,動作主が「に」で表示されるような,意味と文法との対応関係に相違が生じている文では成績が落ちる可能性が示された。
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