研究実績の概要 |
本研究では、自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder; 以下, ASD) 児における適切な直示動詞「行く/来る」使用の促進を最終的な目的とし、ASD児と定型発達(typically developing; 以下, TD)児を対象に、母語の直示動詞使用の発達的特徴の一端を明らかにした。それを踏まえ、ASD児に対する直示動詞の指導プログラムを開発した。 最終年度は、前年度と同じ児童を対象に直示動詞「行く/来る」使用時の実態を調査した。具体的には、生活年齢7歳代から8歳代の日本語を母語とするASD児およびTD児約80名に対して直示動詞使用に関する課題を実施した。その結果、ASDの診断を受けた児童やその傾向がある児童において、TD児と比較して直示動詞の獲得が十分でないことが明らかになった。 研究期間全体を通じて実施した研究から、発達的特徴に関して、(1)ことばの全般的な発達と「行く/来る」の質問応答の適切さに相関があった。(2)「今日、私の家に遊びに来る?」→「うん、行く!」のように、「来る?」と尋ねられて「行く」と応答するタイプが最も難しかった。(3)二者間の身体運動の同期と「行く/来る」を用いた適切な応答との間に部分的な相関があった。またASD児に対する直示動詞の指導プログラムに関して、身体運動の同期を媒介させることにより、他者から自分を主語に変換する方略(例えば、「今日、(あなたは)私の家に遊びに来る?」と尋ねられ、「私は」と変換して「行く!」と答える)の獲得や「行く/来る」の理解・表出を促進した可能性が示唆された。
|