研究課題/領域番号 |
21K13657
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
原田 勇希 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (40883426)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 科学概念 / 素朴概念 / 実行機能 / Stroop課題 / 個人差 |
研究実績の概要 |
今年度は,生物学における素朴概念と科学概念の心的表象の検討と,実行機能(excutive function)の下位要素である抑制能力の個人差との関わりについて調べた。具体的には,多くの人が幼少期に獲得したとされる「動くものが生物である」,「動かないものは生物でない」という素朴概念が,成人(大学生)においても潜在的に残存しており,また自動的に活性化されやすい記憶表象であることが生物・非生物判断課題における反応時間を指標とした実験的研究により示された。本研究では先行研究と異なり,生物・非生物次元と動・不動次元を直交させた要因計画を用いたため,すでに明らかになっていた知見を更新する研究成果が見いだされた。 また,素朴概念に反する評価を下さなければならない条件(生物かつ動かない条件:植物に対して,生物であると反応する条件,非生物かつ動く条件:動力を持つ物体に対して,非生物であると反応する条件)にかかる反応時間と,素朴概念に合致する評価を下す条件の反応時間の差分(干渉量)の個人差が,Stroop課題で測定された抑制機能の個人差と有意に相関することが見出された。この結果は,反応時間の差分をもとに成人期における素朴概念の自動的活性化と抑制による認知的制御の必要性を主張してきた先行研究の知見を補強するものであり,素朴概念の抑制と科学概念の流暢な表出に困難を示す学習者像を明確にした基礎的研究と位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究で提案された素朴概念の抑制モデルの概念的妥当性が示された点で,進展があったものと評価できる。また,実行機能(Stroop課題)の個人差が成人期における素朴概念の抑制と流暢な科学概念の表出に関与していることが明らかになったことから,科学教育の文脈で科学概念への変容が困難な学習者像が明確になった。すなわち,今後の教育現場での実態調査や介入研究を行う際の視点が提供されたため,後続研究を実行するための基礎がためができたものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,事象関連電位(event-related Potentials; ERP)の技法を用いて,素朴概念の潜在的抑制に関する脳内処理過程を明確化することを目標とする。具体的には,素朴概念の抑制モデルを提案する先行研究では,フランカー課題やGo-NoGo課題で刺激提示後約200ms後に前頭-中心部で惹起されるN200(N2)と類似するERP成分を,概念課題においても観測している。しかし,概念課題で観測されるN200の頭皮上分布は頭頂で顕著に観測されていることから(例えば,Pz),このN200成分を競合モニタリング理論(conflict monitoring theory)で説明される複数表象の競合を反映する従来のN200と解釈することは時期尚早である可能性がある。これを解決するためには,Go-NoGo課題等で惹起されるN200成分と直接的に比較できる参加者内要因計画によって実験を遂行する必要がある。 また,素朴概念と科学概念の競合は主として意味処理レベルでの競合であると考えられるが,フランカー課題のような知覚的競合で惹起されるN200成分が素朴概念と科学概念の競合を反映しているという主張に対しては,潜時が早すぎるという懸念がある。同じような意味処理レベルでの競合を反映するERP成分にはStroop N450がある。来年度はこれらの競合課題で惹起されるERPと,概念課題で惹起されるERPを比較したり,課題の提示モダリティを操作したりする方法を用いて,素朴概念と科学概念の競合と素朴概念の抑制に関する時間的ダイナミクスを明らかにする研究を実行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の研究では丁寧な予備実験を行った上で実験を遂行し,また主に分析作業に多くの時間を使用した。そのため学術誌や学会での発表は令和4年度内では行っていない。英文校閲や論文出版にかかる費用が発生しなかったため,次年度使用学が生じた。 令和4年度内に多くのデータが蓄積できたため,令和5年度には学会にて発表し,学術誌への投稿を目指す。そのため予算を繰り越すこととし,筒がない研究の遂行に備えることとする。
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