研究実績の概要 |
今年度は,昨年度と同様に,生物学における素朴概念と科学概念の心的表象の検討と,実行機能(excutive function)の下位要素である抑制能力の個人差との関わりについて実験的に調べた。具体的には,多くの人が幼少期に獲得する「動くものが生物である」,「動かないものは生物でない」という素朴概念が,成人(大学生)においても潜在的に残存しており,また自動的に活性化されやすい記憶表象であることが生物・非生物判断課題における反応時間を指標とした実験的研究により示された。本研究では先行研究のパラダイムを参考にした実験計画を用い,行動指標とともに事象関連電位(Event-Related Potentials; ERP)を計測した。 結果として,成人の参加者においても,幼少期に顕在的な素朴概念と反する評価を下さなければならない条件(生物かつ動かない条件:植物に対して生物であると反応する条件,非生物かつ動く条件:動力を持つ物体に対して非生物であると反応する条件)にかかる反応時間は,素朴概念と科学概念が合致する条件にかかる反応時間に対して一貫して長く,また正答率が低い傾向があることが見出された。またこの課題におけるERPを計測したところ,抑制関連ERP成分であるN2, N450 (Ninc)と,注意関連成分であるP3bの増強が認められた。この結果は,素朴概念と反する判断が必要な課題遂行中の脳内情報処理過程を高い時間分解能で捉えたものであり,抑制モデルの精緻化に寄与する知見である。
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