研究課題/領域番号 |
21K13663
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
松岡 雅忠 福岡大学, 理学部, 准教授 (90880394)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 化学実験 / マイクロスケール実験 / 紙 / 固定 / 触媒 |
研究実績の概要 |
「試薬を固定する場としての紙」をテーマに,開発したマイクロスケール実験群を含む学習プログラムの開発は,指導者にとっては安全に実施でき,学習者にとっては統一感を与える,意欲的な研究テーマとなりうる。 当該研究の1年目は福岡大学理学部化学科における化学教育研究室の立ち上げの年にあたる。本年度は,「油脂の酸化反応の加速」の研究を実施した。紙は,パルプ繊維間に空隙があるため,油脂を吸収させた場合には,空気酸化の促進が期待される。油脂の酸化の経時変化を,高等学校で実践可能な食品分析の手法で評価した。その結果,ガラス板に塗布した場合と比べて油脂の酸化が促進され,中二日程度で,酸化状態の変化が定量可能になることを見出した。この成果をもとに,生徒が油脂の酸化と劣化(風味の低下)を容易に関連付けられるような教材作りを行った。 また,「遷移金属の塩の加水分解による酸性を視覚化する教材」の開発も行った。遷移金属の塩水溶液は加水分解で比較的強い酸性を示すが,遷移金属イオン自体が有色であるためpH試験紙が利用できず,一般には「教科書的な知識」として指導されることが多い。このような現状を踏まえ,塩の加水分解を(気体の発生などで)視覚化する実験の開発を目標とした。たとえば,塩化鉄(Ⅲ)水溶液などをろ紙にしみ込ませ,ここに炭酸水素ナトリウム水溶液を滴下すると発泡するが,これは水溶液が酸性であることを意味する。このように,発泡による二酸化炭素の発生から,遷移金属塩の水溶液の酸性を観察する教材を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,「紙」と「灰」という,人類が古くから利用してきた素材の特性を生かし,「高等学校の現場で活用できる教材づくり」へと導く。高等学校化学の授業実践では色や香りの変化などわかりやすい情報が重要となるが,教材研究にあたっては比色分析のほか,種々の分析装置を利用して,どのような化学反応が進行しているか,経時変化を定量的に追跡する必要がある。研究を推進するにあたり,古典的な定量分析実験,および先端の機器分析を実施できる環境を構築できた。その環境を活かし,当初設定していた目標の達成に向けて順調進展していると考えられる。 また,想定していなかった発見もみられた。たとえば,塩化鉄(Ⅲ)水溶液に炭酸塩を加えると,発泡を伴いながら鉄(Ⅲ)が吸着した粉体が沈殿し,さらに加えると溶液が透明になることを見出した。この現象は,「紙への固定」を超えて,加水分解や吸着,水質の浄化を観察させる教材としての可能性を示唆しており,調査を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,従来「反応の場」として注目されることの少なかった紙類に着目し,油脂を紙に吸収させ,酸化を加速させることによる油脂の空気酸化の教材化や,金属塩をしみこませたろ紙を用いた,塩の加水分解の視覚化などを検討し,所定の成果を得た。 今後は,酸化剤を染み込ませたろ紙を利用した種々の酸化反応,あるいは,燃焼後の灰成分を塩基として用い,酢酸エステル系香料の加水分解に伴う香りの変化を体験させるなど,紙および草木灰を反応場として積極的に活用する化学実験プログラムの開発を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策により,研究協力校へ赴いての研究協議や授業実践ができなかったため,当初想定していた旅費相当の金額が未執行となった。そのため,次年度の旅費の一部として活用したい。
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