研究実績の概要 |
本研究全体における大きな目的は、次の2つの問いを検証することであった。1.なぜ人々の自由意志信念(自分の思い通りに行動を選択できるという信念)はセルフコントロールを促進しないのか、2.自由意志信念が促進する機能は何であるか。このうち、初年度は1つ目の問いについて、実証的な分析をおこなった。具体的な仮説は、「人々の素朴な自由意志概念は(望ましい行動の選択だけでなく)望ましくない行動の選択もふくむため、自由意志信念はセルフコントロールを促進しない」というものである。一般成人を対象とした調査の結果、まずは過去の研究知見と同様に(Feldman, Chandrashekar, & Wong, 2016; Li, Zhao, Lin, Chen, & Wang, 2018)、自由意志信念とセルフコントロールの相関関係は弱く、尺度の種類によっては相関係数の値がマイナスになることもあった。次に、なぜ自由意志信念とセルフコントロールの相関関係が弱いのかという問いについて、行動の望ましさに関連した項目の回答を分析した。その結果、本研究の仮説と一致し、人々の素朴な自由意志概念は望ましくない行動の選択もふくむことが示唆されている。たとえば、「望ましくない行動は自由意志にもとづいている」や「自由意志と行動の望ましさは関係がない」という各項目に対する人々の回答平均値は、中点よりも有意に高いことが明らかになった。ただし、たとえば「望ましい行動は自由意志にもとづいている」という項目に対する回答平均値は先述の項目と同程度以上に高いため、自由意志と行動の望ましさは無関係とはかぎらないことには留意する必要がある。
|