研究課題/領域番号 |
21K13668
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
蔵永 瞳 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (30634589)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 集合的感情 / 利他行動 / 内集団同一視 / 集団間相互作用 / グローバリゼーション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、内集団成員が外集団成員から攻撃されたときに生じる集合感情である「代理的怒り」が生じた際に、代理的怒りと相反する性質を持つと考えられる「代理的感謝」を喚起することで両感情を競合させる方法を提案することを目指す。この目的を果たすため、本年度は、(1)代理的感謝の喚起方法を確立、(2)代理的感謝が代理的怒りと相反する性質を持つか、すなわち外集団成員に対する利他行動を促すかについて検討、という2点に関してシナリオ実験を実施した。 実験はデータ収集を調査委託会社に依頼し、WEB上で行った。対象は20~49歳の日本人とした。実験では、内集団同一視(日本に対する同一視)を測定した後、50年前にあった出来事に関する記事(外集団成員(外国人)から内集団成員(日本人)が助けられた内容のシナリオ)を読んでもらい、質問項目に回答してもらった。 本実験では、代理的感謝を喚起する要因として、支援に対する善意、支援の価値、支援へのコストの3つを取り上げ、それぞれの要因に関して提示する記事の内容を操作した。記事の内容は、善意(高,低)×価値(高,低)×コスト(高,低)の8種類であり、対象者1名につき1種類のシナリオを提示した。記事提示後の質問項目としては、その記事についての内容確認に関わるものや、感謝の程度、外集団成員に対する利他行動に関わる項目等を設定した。 得られたデータについて分析した結果、善意、価値、コストが高いほど代理的感謝が強くなることや、内集団同一視が強いほど感謝が強くなることが示された。これらのことから、善意、価値、コストの操作によって代理的感謝が喚起可能であること、内集団同一視も代理的感謝の生起に関わることが明らかとなった。また、代理的感謝に関しては、外集団成員に対する利他行動と正の関連がみられたことから、利他行動を促す心的モジュールとして作用している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、(1)代理的感謝の喚起方法を確立、(2)代理的感謝が代理的怒りと相反する性質を持つか(利他行動を促すか)検討、(3)代理的怒りと代理的感謝が競合することで代理的怒りによる攻撃が抑制されるか検討、という3つを目的としており、当初の計画では、本年度は上記(1)について検討する予定であった。しかし、実験の詳細を計画している過程で(2)についても合わせて検討可能となったため、本年度は上記(1)(2)について検討を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、前年度に検討した代理的感謝が生起して利他行動に至るまでの過程に関して更に詳細な検討を行う。令和3年度に実施したWEBシナリオ実験をベースに、感謝の内容(嬉しい内容の感謝、申し訳ない内容の感謝)や利他行動の相手(内集団成員、外集団成員、第三集団成員)の種類を取り上げ、どのような内容の代理的感謝がどのような相手に対する利他行動を促すのかについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず物品費については、既存の物でまかなえるものがあったため、当初計画よりも支出が少なく済んだ。また、令和3年度は、コロナ禍のために対面で実施されない・実施できない活動が多くあった。具体的には、学会が対面開催からオンライン開催に切り替わり、出張費が不要となったり、対面で実施予定であった研究資料の整理が計画通りに実施できなかったため(資料整理を依頼する学生への)謝金が当初計画よりも支出されなかった。令和4年度では対面実施が可能となる活動が多くあるため、令和3年度に使用しなかった予算についてはそれらの活動にあてる。
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