研究課題/領域番号 |
21K13689
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上野 雄己 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (70793397)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レジリエンス / 生涯発達 / 予測因子 / 介入プログラム / 横断調査 / 縦断調査 / 大規模調査 |
研究実績の概要 |
令和4年度は,令和3年度に実施された縦断調査を継続し行い(約1年間),さらに得られた縦断調査のデータを解析し,レジリエンスと社会人口統計学的要因,ライフイベント,心理変数との関連を検討した。これらの概要ならび知見を以下にまとめた。 1.20―79歳の日本人成人603名を対象にした6時点(約1ヶ月間隔)の縦断調査のデータを使用して,レジリエンスと社会人口統計学的要因,習慣的な出来事との関連を検討した。条件付き潜在成長曲線モデルによる分析の結果,レジリエンスの切片に対して,運動習慣,飲酒習慣,友人交流習慣とは正の関連,偏食習慣,不眠習慣が負の関連であった。また傾きにおいては有意な変化量が認められなかったが,運動習慣と正の関連,不眠習慣とは負の関連が確認された。 2.20―79歳の日本人成人692名を対象にした2時点(約1年間間隔)の縦断調査のデータを使用して,レジリエンスと生活習慣の関連を検討した。重回帰分析の結果,ベースラインのレジリエンスや社会人口統計学的要因を統制しても,ボディワークや運動,友人交流が頻繁な人ほど,1年後のレジリエンスが高いことが示された。一方で,偏食や不眠が多い人ほど,1年後のレジリエンスが低いことが確認された。 3.20―79歳の日本人成人692名を対象にした2時点(約1年間間隔)の縦断調査のデータを使用して,マインドフルネス,セルフ・コンパッション,抑うつ症状の間におけるレジリエンスの媒効果を検討した。媒介分析の結果,1)マインドフルネスがレジリエンスを媒介し抑うつに及ぼす間接効果,1)セルフ・コンパッションがレジリエンスを媒介し抑うつに及ぼす間接効果の2経路が確認された。なお,マインドフルネスとセルフ・コンパッションともに,抑うつ症状に対する有意な直接効果は示されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の課題であったマインドフルネスやセルフ・コンパッションとレジリエンスの関係について定量的に明らかにすることができた。得られた知見は海外の先行研究と類似した結果が示されたが,本研究のような縦断調査による結果は国際的にも未だ報告されておらず,貴重な研究知見とされる。加えて,複数時点の調査を通して,レジリエンスを予測する社会人口統計学的要因や生活習慣,習慣的な出来事との関係を示唆することができ,概ねレジリエンスを予測する因子をある程度特定することができたことは非常に意義が大きいといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず始めに令和3年度,4年度で得られた研究知見を学術誌に投稿することである。そして,本研究で得られた知見の再現性を確認するために,海外で開発されたレジリエンス尺度を使用して再調査を行うことである。特にレジリエンスは多様な因子から導かれることから,測定する尺度によって構成される因子が異なることが指摘されている。また貴重なデータではあるものの,分析対象者が少なく汎用性の問題も踏まえ,大規模縦断調査のデータセットを利活用し,更なる検証を行っていくことが重要である。そのため,介入プログラムの効果検証を始める前に,十分なエビテンスを確立することを優先させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は令和3年度から得られたデータを分析すること,また縦断調査を継続実施することに重きを置いた。そのため,当初計上していた論文投稿に関わる英文校正費,掲載費を使用しておらず,それらの費用を本年度に繰り越している。また昨年度の解析状況を踏まえ,より高度な解析を要することから,PCの新調も必要とされる。以上を踏まえて,昨年度より繰り越された助成金の使用計画として,論文に関わる費用とPC購入をメインに支出する予定である。なお,本年度の助成金の大方は当初の予定通り,調査と介入費用に計上する見込みである。
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