研究課題/領域番号 |
21K13702
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研究機関 | 比治山大学 |
研究代表者 |
吉良 悠吾 比治山大学, 現代文化学部, 講師 (00897621)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 教育行動 / 抑うつ / 高校生 / 教師 / 学校適応感 / ソーシャルスキル / 予防介入 |
研究実績の概要 |
高校生の抑うつには,生徒が知覚する教師の生徒に対する関わり(教育行動:teaching behavior)が影響することが示されている。2021年度は,欧米で使用されている尺度を用いて日本の教師の教育行動を測定することが可能であることを確認するとともに,教師の教育行動は生徒の学校適応感を向上させることで抑うつを低下させることを示した。 2022年度では,生徒側の要因も踏まえて教師の教育行動と生徒の学校適応感の関連性を検証するとともに,学級規模の抑うつ予防介入の効果が担任教師の教育行動の特徴によって変動するか検討を行った。 生徒の学校適応感は,教師の教育行動だけでなく,生徒側の要因との交互作用によって変動する可能性が示唆されている。そこで,生徒が持つ愛着スタイルに着目し,それによって教師の教育行動と生徒の学校適応感との関連性が変動するか検証を行った。その結果,回避的な愛着を持つ生徒には,教師からの受容的であたたかい関わりを受けることが学校適応感の向上に有効となること,不安の強い愛着を持つ生徒に対しては,授業内容や社会行動について教えるだけでなく,失敗しても大丈夫であるという安心感を与えることも必要となる可能性が示唆された。 また,高校生の抑うつ予防には,生徒のソーシャルスキルを高めることが有効であることが示されている。そこで,教師の教育行動と生徒のソーシャルスキルとの関連を調査研究により検証するとともに,ソーシャルスキル向上による抑うつ予防介入の効果が担任教師の教育行動の特徴によって変動するか検討した。調査研究の結果,生徒の授業内容の理解や能力の発達を促すための教示的な行動がソーシャルスキルの向上と関連することが示された。そして介入研究の結果,担任教師のそのような行動を多く認識している生徒では,介入によってソーシャルスキルが向上しやすく,抑うつも低下しやすいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度に行った研究では,①生徒が持つ愛着スタイルによって,高校生の学校適応感の向上,ひいては抑うつの低減や予防のために教師に求められる教育行動が異なること,②教師が行う生徒の授業内容の理解や能力の発達を促すための教示的な行動(教授行動)が,高校生のソーシャルスキル向上と関連すること,③授業時間を用いた学級規模のソーシャルスキル向上による抑うつ予防介入の効果は,担任教師の教授行動を多く知覚している生徒において高まること,の3点を明らかにした。 2022年度に実施した研究は,当初計画していた研究内容からさらに発展したものであり,高校生の抑うつと教師の教育行動との関連性をより精緻に捉えるとともに,教育現場における実践につながるものであったと言える。これらのことから,「(1)当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った研究により,日本における高校生の抑うつと教師の教育行動との関連性が示された。次年度では,それらの関連性がより長期的に見られるかどうかについて,2022年度に1年間の追跡調査を通じて得られたデータの分析により検証を行う。また,これまでに得られたデータをまとめるとともに,欧米で行われた調査データとの比較を行い,国際比較による日本の教師の教育行動の特徴を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に予定していた研究に加えて新たな研究を複数行ったものの,投稿中であった論文が国際査読付雑誌からリジェクトされたことで論文掲載料による支出がなくなるなどした。そのため,新型コロナウィルスの感染拡大およびそれに伴った政府の非常事態宣言の発出により生じた2021年度からの繰り越し金額を使い切るに至らず,結果として次年度使用額が生じた。2023年度では,2022年度に得られた研究成果を国内外の学会および学術誌で発表する予定であるため,執筆に係る経費や旅費,掲載料に助成金を使用する予定である。
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