研究課題/領域番号 |
21K13726
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
權 眞煥 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90772020)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ASD / 自閉スペクトラム症 / 身体同調 / 非言語コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的はコミュニケーションにおける自閉スペクトラム症(ASD)者の身体同調特性を解明し,自閉症スペクトラム障害に対する客観的なバイオマーカーを開発することである.具体的には,位相差検出・分析アルゴリズムを用い,コミュニケーション中に発生したASD者の身体同調特性を定量化し,定型発達者との相違を検証する.本年度の成果は一方向コミュニケーションにおいてASD者の身体同調特性を数値化し,量的・質的側面で特定できたことである.具体的にASD者は定型発達者に比べ,同調の活動度(発生頻度)が有意に低く特定の範囲で発生していることが明らかになった.この結果は,ASD者の対人的相互反応を量的側面で特定できたものである.さらに,ASD者は同調の強度も定型発達者に比べ低いことが検証された.具体的には,ASD者は時間変動(同調への時間幅)が大きく,収束性も弱いことが明らかになった.この結果は,ASD者の対人的相互反応を質的側面で特定できたものである.本年度の成果によりASD者の社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応を数値化し,ASDのバイオマーカーを開発できる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はASD者の身体同調特性を一方向コミュニケーションにおいて解明することができた.特に,ASD者は定型発達者に比べ,同調の発生頻度と強度が低いことが検証された.この成果はASD者の社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の特徴を量的かつ質的側面で定量化できたものである.ASDの診断においては診断技術を有する専門医が少なく,診断や診療への待機時間が数ヶ月以上かかるなど様々な社会問題が発生している.また,自閉症の診断に用いられる検査や尺度は,保護者の記憶と主観に影響を受けるものが多く,客観性を有するバイオマーカー(診断と評価のための指標)がないのが現状である.その中,本研究の成果は新たな診断支援システムを開発するための基礎データとして位置づけることができる.
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今後の研究の推進方策 |
当初はASDの重症度を表す自閉症スペクトラム指数(AQ)と同調特性に負の相関があると予想していたが,有意な相関関係は得られなかった.その原因として考えられるのは一方向コミュニケーションという実験設定と成人ASD者のカモフラージュ特性である.今後の研究の推進方策として,双方向コミュニケーションや3者間のグループディスカッションなど多面的に実験条件を増やし検証することにより,重症度への分類や自閉スペクトラム症のディメンジョンへの適用を試みる.また,それぞれの実験条件から得られたASD者の身体同調特性を活動度と前後関係,強度として特徴づけ,重症度やディメンジョン,個別特性(年齢・性別・知的障害など)の分類を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も新型コロナウイルス感染症の拡大により,移動制限や密集制限が設けられ,旅費や謝金の支出が少なかった.次年度からは新型コロナウイルスの感染状況や方針を勘案し,適宜対応していく予定である.
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