研究実績の概要 |
2023年度は,3種類のセルフ・コンパッションの手紙について,その有効性と受容性の観点から比較を行い,以降の研究で用いる手続きについて明確化した。セルフ・コンパッションの手紙はコンパッションに基づく介入(Compassion-based intervention: Kirby et al., 2017)で用いられるアプローチのひとつであり,わが国においても,その有効性を示すエビデンスが増加している(たとえば,松岡他, 2023; 水野他, 印刷中)。セルフ・コンパッションの手紙には,①思いやりのある自分から他の人に宛てた手紙を書く,②思いやりのある自分から自分に宛てた手紙を書く,③思いやりのある他の人から自分に宛てた手紙を書くという3つの手続きがあるとされる(岸本 2021; Neff & Germer, 2018)が,これら3つの手続きにどのような特徴があるのかについて,十分に比較検討されていなかった。 2023年度は(1)3種類のセルフ・コンパッションの手紙の短期的な介入効果の比較,(2)介入効果に影響を及ぼすパーソナリティ変数に関する探索的検討,(3)3種類のセルフ・コンパッションの手紙の受容性(acceptability)の観点からの比較,(4)受容性に影響を及ぼすパーソナリティ変数に関する探索的検討を実施した。 その結果,「①思いやりのある自分から他の人に宛てた手紙を書く」手続きについては,特性セルフ・コンパッションが低い人やセルフ・コンパッションを持つことにデメリットを感じている人ほど,介入効果が得られやすいことが示唆された。コンパッションに基づく介入において,特に介入効果が必要とされるのは,特性セルフ・コンパッションの低い人や,セルフ・コンパッションへの恐れが高い人であり,そのような対象への有効な介入手続きを明らかにできたと言える。
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