研究実績の概要 |
運動物体の明瞭な見えを支えている神経処理過程を理解するため,運動物体の消失位置が運動方向にずれて知覚される錯覚(運動外挿)の脳波神経相関について検討した.この外挿は動的ノイズから成る背景上で生じ,その外挿量は前頭頂の電極における後期陰性電位と相関を示した(中山ら, 日本視覚学会2022年夏季大会).周波数次元における解析では,外挿量は運動消失以前のシータ波の位相に依存し,さらに消失後のシータ波のパワーやコヒーレンスと正の相関を示した(中山ら, 日本視覚学会2023年冬季大会).視覚運動情報にもとづく予測的位置表現やその産物としての運動外挿がシータ波と関連することを見出している.これらの結果を,前年度に実施した心理物理学実験の結果と合わせて,原著論文としてまとめ,投稿準備中である(Nakayama et al., in preparation).また次年度の国際視覚学会に投稿し,口頭発表に採択された(Nakayama et al., 2023). 意識的知覚の成立過程を多面的に理解するため,身体情報との関係についても検討した.機械学習を用いて,微小眼球運動及び瞳孔径を特徴量として,視覚意識の成否とその判断の確信度をそれぞれ有意な精度で復号化できることを示した.視覚意識と身体情報の関連,特徴量の時間帯や個人差などに関する考察を加えた.行動や言語による報告を要しない視覚意識の計測技術の開発は,将来的に意識の成立に必要十分な神経活動を捉える試みに資すると考えられる.上記の結果をまとめて国際誌に投稿し,報告者を筆頭著者とする原著論文として公刊された(Nakayama et al., 2022).
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