研究実績の概要 |
本研究の目的は, 言語音声聴取時に左半球優位性の情報処理が働きにくいとされる統合失調症者を対象とした脳機能計測実験を行い, その異常が言語情報の処理異常を表すのか, 言語音声の持つ時間情報の処理異常を表すのかを検討することを通して, 聴覚情報処理における大脳半球機能差のメカニズムを議論することである。 当該年度は, 健常者を対象に, 言語音声刺激, 音楽刺激, 言語音声と音楽の両方の要素を合わせ持つ刺激の時間変動に同期して生じる神経活動の大脳半球優位性を脳磁図で計測した。言語音声は複雑に時間変動する信号であるが, 特に音節の出現頻度に一致する10 Hz以下の時間変動と, 基本周波数(音高)に一致する50 Hz以上の速い時間変動に特徴付けられる。 実験では, 82.41 Hzの基本周波数を持つ母音を500 msの間隔(2 Hz)で呈示する刺激を用いた。 音楽も言語音声と同様に複雑な時間変動を持つ信号であるが, 特に音楽のリズムを型取る5 Hz以下の遅い時間変動と, 基本周波数(音高)に一致する50 Hz以上の速い時間変動に特徴付けられる。実験では, クリック音を様々な頻度で連続呈示することで, ホ長調の1オクターブ を構成する8音階と同じ音高を持つ音を作成し(41.2 Hz→ミ, 46.3 Hz→ファ♯, 51.9 Hz→ソ♯, 55 Hz→ラ, 61.7 Hz→シ, 69.3 Hz→ ド♯, 7 7.8 Hz→レ♯, 82.4 Hz→ミ), それらを500 msの間隔(2 Hz)で順番に呈示する刺激を用いた。言語音声と音楽の両方の要素を持つ刺激には, 基本周波数を様々に制御することで, ホ長調の1オクターブを構成する8音階と同じ音高を持つ母音を作成し(基本周波数と音階の組み合わせは 音楽刺激と同様), それらを500 msの 間隔(2 Hz)で順番に呈示する刺激を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常者を対象とした脳磁図計測を25名分行い, 予定通りデータの収集が進んだ。データの分析については, MRI装置で各被験者の脳構造画像を取得し, 高精度の信号源分析とウェーブレット変換を用いた時間周波数解析を行うことで, 左右半球の聴覚関連領域における神経振動の比較を行う解析系を整備した。
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今後の研究の推進方策 |
健常者のデータ収集がほぼ完了したため, 言語音声刺激, 音楽刺激, その両方の特徴を持つ刺激に対して生じる神経振動の半球優位性についてデータの分析を進めることで検討を進める。また, 来年度以降は統合失調症患者のデータ収集を25~30名分取得し, 統合失調症患者での大脳半球機能差の異常を明らかにする。
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