研究実績の概要 |
本研究の目的は, 言語音声聴取時に左半球優位性の情報処理が働きにくいとされる統合失調症者を対象とした脳機能計測実験を行い, その異常が言語情報の処理異常を表すのか, 言語音声の持つ時間情報の処理異常を表すのかを検討することを通して, 聴覚情報処理における大脳半球機能差のメカニズムを議論することで ある。 当該年度は, 健常者及び統合失調症者から, 言語音声刺激, 音楽刺激, 言語音声と音楽の両方の要素を合わせ持つ刺激の時間変動に同期して生じる神経活動の大脳半球優位性を脳磁図で計測し, その解析を進めた。 健常者から得られた結果として, 音楽刺激の時間的特徴に同期して生じる神経活動(刺激の呈示頻度に同期して生じるデルタ帯域の神経振動および音のピッチに同期して生じるガンマ帯域の神経振動)に関しては, その周波数に依らず右半球優位となることを確認した。一方で, 言語音声刺激や言語音声と音楽の両方の要素を合わせ持つ刺激の聴取時には, 神経活動の周波数に依らず, 音楽刺激で見られたような右半球優位性が消失することがわかった。 時間の制約上, 統合失調症者からは言語音声刺激に対してのみ計測を行った。その結果, 統合失調症者では, 左半球においてのみ, 言語音声刺激のピッチに同期して生じるガンマ帯域神経振動が健常者と比べて有意に低下していることが分かった。 現時点では聴覚皮質においてのみの解析を行っているが, その他の幅広い脳領域での半球優位性を調べることができるように解析系の整備も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常者に関しては, 研究計画で予定していたデータの取得が終了している。統合失調症者に関しては, 時間の制約もあって, 言語音声刺激に対しての神経活動のみ計測をしているが, 来年度以降にも計測を継続すれば予定していたデータの取得が可能だと考えられる。データ解析についても前年度に立ち上げた解析系を用いて, すでにデータの分析を終えており, 一定の結果が得られている。
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次年度使用額が生じた理由 |
統合失調症患者を対象とした脳磁図実験の実施が予定通り進まず, 予定通り費用が執行がなされなかったため次年度使用額が生じてしまった。残りの実験を実施するとともに, ただいま, 複数の論文の執筆を進めているため, それにかかる費用として使用をしていく予定である。
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