研究課題/領域番号 |
21K13783
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所 |
研究代表者 |
宮崎 弘安 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 基礎数学研究P, 研究主任 (50799765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モジュラス付きモチーフ / De Rham-Witt複体 / 相互層 / 構造層係数コホモロジー / Hasse-Arfの定理 |
研究実績の概要 |
モジュラス付きモチーフ理論の応用とさらなる基盤整備を目指して研究を推進し、下記の成果を得た。 (1):モジュラス付きモチーフ理論の主目的は、従来のモチーフ理論では捉えられない「非ホモトピー不変」なコホモロジーを制御することである。最低限の基礎理論はこれまでの研究で完成したため、具体的に非ホモトピー不変なコホモロジーを制御することが次なるステップとなる。構造層のコホモロジーは、代数多様体上のコホモロジーの中で最も基本的であるにもかかわらず、ホモトピー不変でないために、従来理論では制御できない。本研究では、Shane Kelly氏と共に、構造層のコホモロジーの実現関手を構成し、モジュラス付きモチーフの圏が従来理論よりも真に広い表現力を持つことを初めて実証した。 (2):De Rham-Witt複体はp進コホモロジーを生み出す重要な対象であるが、その定義は多数のデータを含み複雑である。本研究では、小泉淳之介氏と共に、モジュラスペアの理論を用いたde Rham-Witt複体の新たな構成を与えた。より正確には、de Rham-Witt複体(のモデル)が、Witt環と乗法群(のモデル)のテンソル積を用いて表されることを示した。さらに、de Rham-Witt複体の種々の構造射が、Witt環と乗法群のモデルに現れる射影直線の自然な自己射から誘導されることも証明した。これによりp進コホモロジーの研究にモチーフ理論の観点から新たなアプローチが可能になる。 また上記研究の過程で、相互層の理論を一般底上に拡張した。さらに、モジュラスペアに現れる因子の係数を有理数に拡張し、数論のHasse-Arfの定理のモチーフ的類似という非常に興味深い結果を得た。
また、国際研究集会「Motives in Tokyo 2023」をオーガナイザーとして企画し、東京大学大学院数理科学研究科において開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の主目的は、モジュラス付きモチーフ理論を応用することにより、代数多様体のコホモロジーの研究に対する新たなアプローチを得ることである。今年度は、モジュラス付きモチーフ理論の最初の応用として、構造層係数のコホモロジーの実現関手の構成することで理論の有効性を初めて実証した。さらにp進コホモロジーと深く関わるde Rham-Witt複体について、モジュラスペアの理論を用いた新しい構成を与えることもできたため、本研究課題の当初の課題に対して十分な成果が得られている。また、上記の応用を模索する過程で、相互層の理論を一般底上および有理係数因子の場合へ一般化することで理論の応用範囲を広げるとともに、その応用としてHasse-Arfの定理のモチーフ的類似という思いがけない結果を得ることもできた。このように、研究は当初の計画を超えて大きく進展している。
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今後の研究の推進方策 |
モジュラス付きモチーフ理論の応用研究と基盤整備をさらに推進する。まずは構造層係数コホモロジーの実現関手の構成法を拡張することにより、微分係数の層係数のコホモロジー(Hodgeコホモロジー)の構成を目指す。それに成功したらde Rham-Witt係数のコホモロジー(Hodge-Wittコホモロジー)の実現関手の構成に向けた検討を行う。また、相互層のコホモロジーをモジュラス付きモチーフの圏で表現するための一般論の構築にも並行して取り組む。 研究課題の遂行のためには、個々のコホモロジーに関する専門家の深い知見が必要となると考えられるため、出張やワークショップ、国際研究集会の開催などを通じた国際的な研究交流、情報交換を積極的に推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の多くは海外出張及び国外研究者の招聘に用いる予定であったが、今年度の上期までは未だ新型コロナウィルス感染症の影響が強く残っており、国外出張や招聘の実施が困難な状況が続いた。下期には予定していた出張の一部を行ったり、国際研究集会を開催することができたが、当初の計画全てを遂行することができなかった。次年度は今年度の計画も含めて出張や研究者招聘を実施する予定である。
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