研究実績の概要 |
本研究課題の目標は, 先行結果として得られている有限次元タイヒミュラー空間上のWeil-Petersson計量の完備化, およびそれに付随するWeil-Petersson凸幾何学の理論を無限次元タイヒミュラー空間の場合へと拡張することである. 一般の無限次元タイヒミュラー空間に対してはWeil-Petersson計量を定義できないため, それを許容する部分距離空間である2乗可積分タイヒミュラー空間上で本研究では考察している. いくつかの例を除き, この空間上でWeil-Petersson計量が誘導するWeil-Petersson距離は非完備となる. したがって, この空間のWeil-Petersson距離に関する完備化を考えることができる. 有限次元の場合では, この完備化により現れるタイヒミュラー空間の境界成分はノード付きリーマン面と呼ばれる, 結節点を許容するリーマン面となる. 本年度では前年度に引き続いてWolpertの原論文を勉強し, 無限次元タイヒミュラー空間の場合へと結果が拡張できるかを考察した. 結果としては残念ながら十分な成果が得られていない状況である. Wolpertの論文ではコンパクトリーマン面上のアーベル微分に関する古典的な結果および層の奥深い理論を用いていたため, その箇所の習熟に予想外に時間がかかっている状態である. しかし, 着実に成果を得るための準備は整っている次第である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実績の概要にも記載した通り, Wolpertの原論文では想定外の数学的概念を用いて結果を得ていたため, それらの箇所の習熟に時間がかかっていることが挙げられる. また, コロナウイルス流行による行動制限のため, 研究打ち合わせも十分に行えなかったことも問題解決の進展に影響を及ぼしていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き2乗可積分タイヒミュラー空間のWeil-Petersson距離に関する完備化についての考察を進める. 上記に記載したように, コンパクトリーマン面の場合の証明の全体像は着実に理解しつつあるため, 無限次元タイヒミュラー空間への拡張についての考察までは程遠くないと考える. 前年度の推進方策で危惧していた, リーマン面の理想境界に関する変形の部分については, 非コンパクトリーマン面に対してとれる正則近似列の理論を応用することで解決できるのではないかと肯定的に予想している. 得られた研究成果は日本数学会および海外での研究集会等で幅広く発表する予定である.
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