研究課題/領域番号 |
21K13812
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
河本 陽介 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (10825350)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ランダム行列 / intertwining関係 / 確率微分方程式 / 可積分系 / 行列式点過程 / intertwining法 |
研究実績の概要 |
当該年度は,N+1粒子系とN粒子系の時間発展がMarkov核に対してある可換図式を満たすことを意味するintertwining関係の研究を実施した.この性質は固有値過程を始めとするランダム行列に関する確率力学において有用であり,多くの先行研究がある. 古典的な固有値過程であるLaguerre過程についても,あるMarkov核に対してintertwining関係を持つことが知られていた.しかしこれは,異なるパラメーターを持つN+1次元Laguerre過程とN次元Laguerre過程のintertwining関係であった.
そこで本研究では,同じパラメーターを持つN+1次Laguerre過程とN次Laguerre過程がintertwining関係を持つようなMarkov核を新たに構成した.その結果,Laguerre過程の粒子数に関する無限系列が,このMarkov核から定まるprojective systemについて一貫性を持つことを示せた.また,このMarkov核の具体的な数式は一見複雑であるが,ユニタリ群の両側作用で不変なランダム行列の固有値分布の文脈において解釈できることが分かった.本結果はすでに論文として投稿済みであり,査読結果を待っている状況である.
intertwining関係を調べる動機は,intertwining法により,確率力学の無限次元極限を調べる上で重要な役割を果たすことにある.intertwining法とは,確率力学の無限系列がprojective systemに対して一貫性を持つとき,その境界上に対応する力学を構成する手法である.今回Laguerre過程の族の一貫性が分かったため,その境界過程を議論することが可能となった.また,今回構成したMarkov核はランダム行列理論で自然な解釈を持つため,一貫性を持つモデルがLaguerre過程以外にもあると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はPickrell測度に関係する確率力学の境界過程を構成する予定であった.しかし,これまでに使われてきたMarkov核はこの確率力学に適さないことが分かり,新しいMarkov核を作る必要が生じた.この問題については解決し,適切なMarkov核の構成はできたものの,当初の目的であった境界過程の構成については,上記理由により投稿までは行きつかなかったという点ではやや遅れていると言える.しかし,当初の問題についても必要なintertwining関係やフレームワークの構築などの大部分は証明できており致命的に遅れているわけではないうえに,Markov核の研究からも有用な示唆がいくつか得られており,この点においては当初は予測していなかった発展を見せたともいえる. 加えて,Pickrell測度に関する境界過程について,平衡状態を記述する無限次元確率微分方程式の計算を進めることができた.intertwining法で得られた境界過程の確率微分方程式表示はまだ先行研究がなく,興味深い問題である. 上記を総合的に勘案し,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に構成したMarkov核から定まるprojective systemについて,intertwining法を用いた境界過程の構成法を完成させることがまず最初の課題となる.これにより,Pickrell測度に関係する境界過程が得られる.次にPickrell測度の行列式構造と直交多項式の漸近解析を用いることで,得られた境界過程の無限次元確率微分方程式を求める.上記の課題に関しては,現在までの研究により一定の成果は得られており,大筋では示せている状況である. その後はいくつかの研究方針が挙げられる.その中で,新しいMarkov核の逆温度の一般化など,Markov核をより詳しく調べる方向を考えている.これは研究開始当初は考慮していなかった方向の話題であるが,最終的には無限粒子系の研究にも有用であると期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初には予想できなかった政治情勢により,共同研究者の居住国への渡航が困難な状況が続いている.そのため,計画していた海外出張が行えず,旅費に未使用額が生じている.次年度もこのような状況が続くと想定し,当分はメール等のオンラインで研究を進めることとする.
一方で,旅費は主に国内出張に使用する.当該年度の研究により本課題は新たな広がりを見せており,可積分系や対称関数の深い専門知識が必要となってきた.そこで,このような分野での学会発表や,専門家との連携を図るために旅費を使用する.
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