研究課題/領域番号 |
21K13815
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石田 祥子 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (60712057)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 走化性方程式 / 癌浸潤モデル / 間接的走化性方程式 / 大域可解性 / 解の安定化 |
研究実績の概要 |
[具体的内容] 本課題は質量保存則をもつ放物型方程式 (parabolic equations with divergence form)の基礎解析が目的である。このような方程式の典型例は多孔質媒質中の流れを記述するポーラスメディア方程式、生物の走化性を記述するケラー・シーゲル系、癌細胞の正常な細胞への浸潤を記述する癌浸潤モデルなどがある。2022年度にまとめた解の安定化に関する研究の発展として、放物楕円型ケラー・シーゲル系に対する解の安定化(Archivum Mathematicum, Vol.59 (2023), No.2, 181--189)と、2つの未知関数に依存する退化型拡散項をもつ癌浸潤モデルに対する解の安定化(Discrete and Continuous Dynamical Systems-Series B (2022))について報告した。これらは横田智巳氏 (東京理科大学)との共同研究である。また、癌浸潤モデルに対する大域可解性に取り組んだ。このモデルは藤江-仙葉(2019)、Jin-Liu-Shi (2018)から、Nを空間領域の次元として拡散の強さmと非線形項の強さaに関する条件a<m+4/Nが大域可解性の臨界であると予想されていた。我々の研究では最大正則性原理やソボレフの埋め込み定理を用いる事でこの予想を肯定的に解決した。この手法は先行研究よりも単純かつ明快であり、その結果、臨界条件 (a=m+4/N)においても初期値の小ささを仮定することで時間大域的に解が存在することを証明した。この研究成果は横田智巳氏 (東京理科大学)との共同研究として国際論文誌に投稿中である([1])。 [意義]上記の結果[1]は3連立の間接的走化性方程式にも応用することが出来る。この応用から間接的走化性方程式は線形拡散放物型方程式が1つ連立されるごとに、時間大域存在の臨界値が2/Nづつ大きくなると予想できる。現在は単なる予想にとどまっているが、今後、類似した数理モデルが提唱された際には[1]の手法が利用できると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた感応性関数をもつケラー・シーゲル系に対する解の安定化については未着手だが、次年度以降に予定していた、2つの未知関数に依存する退化型拡散項をもつ癌浸潤モデルの解析に取り掛かった。まず、藤江-石田-伊藤-横田(2018)と同じ系に対し解の安定化を示した。その後、凝集項を一般化したモデルに対する時間大域可解性の予想を肯定的に解決し、解の有界性・安定化の結果と合わせて論文として投稿している。これらから本課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、Johannes Lankeit氏(ドイツ, ハノーファー大学)とGiuseppe Viglialoro氏(イタリア, カリアリ大学)との共同研究である、勾配ベースの減衰項を導入した走化性方程式に対する大域可解性について考察を進めている。研究打ち合わせを重ね、すでに数学的議論と証明の計算は終えているため、論文としてまとまりしだい国際論文誌へ投稿予定である。その後は、感応性関数をもつケラー・シーゲル系に対する解の安定化と、fast diffusion型の拡散項をもつケラー・シーゲル系の可解性を中心に研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していたEquadiff15(チェコ)の代わりにiWMAC6(ドイツ)へ参加した。航空券や滞在費の差額により次年度使用額が生じた。翌年度分と合わせて、幹事として主催するiWMAC7(京都)へ海外研究者を招聘するために使用する計画である。
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