研究課題/領域番号 |
21K13815
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石田 祥子 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (60712057)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 走化性方程式 / がん浸潤モデル / 間接的走化性方程式 / 大域可解性 / 解の安定化 |
研究実績の概要 |
本課題は質量保存則をもつ放物型方程式 (parabolic equations with divergence form)の基礎解析が目的である。このような方程式の典型例は多孔質媒質中の流れを記述するポーラスメディア方程式、生物の走化性を記述するケラー・シーゲル系、がん細胞の正常な細胞への浸潤を記述するがん浸潤モデルなどがある。 まず昨年度から継続して研究を進めているがん浸潤モデルに対して述べる。N≧2を空間領域の次元として、拡散の強さmと非線形項の強さaに関する条件「a<m+4/N」の下での大域可解性と解の有界性を最大正則性原理やソボレフの埋め込み定理を用いて証明した。この研究成果は横田智巳氏 (東京理科大学)との共同研究として国際論文誌(Journal of Differential Equations Volume 371 (2023) Pages 450--480)に掲載された。また、1次元の場合には条件「a<m+3」での解の大域有界性を示している。続いて解の爆発に関する研究にも着手し、mとaの条件を「a=m+4/N」に限定した場合には時間無限大での爆発は起きないことまでわかっている。これらの結果は論文として報告予定である。 次に走化性方程式に関して述べる。個体群(u)の運動が群の偶発的な死(捕食者の攻撃による壊滅)に影響を与える項と個体群の生殖成長項を併せ持つ新しいモデルについて研究を進めた。ここでは群の偶発的な死は群の勾配(▽u)に依存するものとした。純成長と劣成長の複合作用が解の大域的存在を保証するような十分条件を導出することを目的とし、「自然死」による崩壊ではなく、「偶発的な死」すなわち勾配項の強さに関する条件を提起した。 J. Lankeit氏(ハノーファー大)、G. Viglialoro(カリアリ大)との共同研究として国際論文誌(Discrete and Continuous Dynamical Systems, Series B)に掲載が決定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた感応性関数をもつケラー・シーゲル系に対する解の安定化については未着手だが、次年度以降に予定していた質量保存則をもつ放物型方程式の解の爆発についてがん浸潤モデルに対する結果を得ている。また、個体群の偶発死を加味した新しいモデルの研究に対しても結果を報告している。これらから本課題はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、H.-Y.Jin氏(華南理工大学)との共同研究として、負の走性の一部が正の走性に影響を受ける項をもつ走化性モデルに関して研究を進めている。また、がん浸潤モデルの1次元可解性に関する結果は早急に論文としてまとめたい。その後は、感応性関数をもつケラー・シーゲル系に対する解の安定化と、fast diffusion型の拡散項をもつケラー・シーゲル系の可解性を中心に研究を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際研究集会「The 7th International Workshop on Mathematical Analysis of Chemotaxis」における海外研究者招聘のための旅費として使用予定であったが、東京理科大学および京都大学数理解析研究所から旅費の援助をしていただいたため、当初予定額より使用額が小さくなり次年度への繰越額が生じた。 助成金は国内学会への参加旅費、およびイタリア、カリアリ大学で開催される国際研究集会「The 8th International Workshop on Mathematical Analysis of Chemotaxis」への旅費として使用予定である。
|