研究課題/領域番号 |
21K13826
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡邊 圭市 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (30875365)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ナビエ・ストークス方程式 / 自由境界問題 / 最大正則性 / 関数方程式論 |
研究実績の概要 |
接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化および数学解析に対する理解を深めるために,Jurgen Saal 教授と共同で国際研究集会 "Germany-Japan Workshop on Problems Related to Free Boundaries and Moving Contact Lines" を開催し,国内外の研究者と本研究課題に関連する研究課題に関する議論を行った.この国際研究集会を通じて,研究代表者がこれまでに行った接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化に改良の余地があることがわかった.実際に,これまでに様々な定式化がなされてきたが,Fricke ら (2019) の論文にて指摘された「接触角付近における圧力の弱特異性」を含む定式化がこれまでの定式化では考慮されていないことがわかった.この「接触角付近における圧力の弱特異性」を含む数理モデルの定式化を目指し,研究代表者は現在も引き続き接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題を試みている.また,問題のの定式化と並行して,研究代表者はこの自由境界問題の数学解析の手法の開発にも取り組み,重み付きのソボレフ空間を用いることで接触角付近に生じる特異性をある程度回避できることがわかった.
関連する研究として,ナビエ・ストークス方程式の自由境界問題非自明な定常解の安定性の証明に取り組んだ.特に,軸対称な定常解の安定性は,定常状態における自由境界を決定するオイラー・ラグランジュ方程式に付随するエネルギー汎関数の二次変分の正値性によって特徴づけられることがわかった.この研究成果は1800年代の Plateau の古典的結果(参考:Appell (1932))を正当化する大変興味深いものである.この研究成果は単著論文としてまとめ,現在国際学術誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者がこれまでに行った,接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化では,Fricke ら (2019) の論文にて指摘された「接触角付近における圧力の弱特異性」を反映されておらず,数理モデルの定式化の見直しが必要になった.最近,Yan Guo 教授と Ian Tice 准教授によって接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の時間大域適切性が示された(Journal of the European Mathematical Society, to appear, arXiv:2010.15713)が,彼らの論文で考えられている数理モデルでも「接触角付近における圧力の弱特異性」が反映されておらず,接触角における境界条件が適切性を得るための必要条件かどうかも明らかにされていない.このように,接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化には依然として改良の余地があり,研究計画にて記述した方程式系の時間局所適切性の証明には至っていない.数理モデルの定式化を目指し,この問題に詳しい Jurgen Saal 教授や Matthias Kohne 博士らを研究訪問するためにデュッセルドルフ(ドイツ)に渡航する計画を立てていたが,新型コロナウィルスの感染状況の改善が見られず,渡航をやむなく中止した.それに代わってオンライン会議システム Zoom を用いてやりとりを行なっているが,時差の問題があり,十分な議論を行えていないのが現状である.
本研究を行なっている中で,従来の,境界が滑らかな有界領域におけるナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の非自明な定常解の安定性の研究が未だ発展途上であることを知り,それに関する研究成果を得ることができた.
以上の研究状況を総合し,研究代表者は,本研究は当初の予定からやや遅れていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
1.Shikhmurzaev (1993) が提唱した数理モデルを用いて接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化を試みる.また,境界が滑らかでない有界領域における放物型偏微分方程式系の最大正則性を示した Amann (2021) の結果を,本研究に応用できるかを検討する.
2. 新型コロナウィルスの感染拡大状況にも依存するが,接触角を生成するナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の定式化に詳しい Matthias Kohne 博士(ドイツ)を研究訪問する.さらに,本研究に関連する国際研究集会を開催し,国内外の研究者と情報を交換する.
3. 従来よりも正則性の低い初期値の扱いを可能にするために,準線形放物型偏微分方程式系に対する最大L1正則性の理論の構築に着手する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染状況を踏まえ,国外だけでなく国内の出張も見送ったため.新型コロナウィルスのワクチンの普及から次年度は感染状況の改善が見込めるので,次年度は国内外に出張する.
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