研究課題/領域番号 |
21K13849
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
久野 義人 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (30753628)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多体局在 / 量子エンタングルメント / 人工量子多体系 / 量子傷跡 / 非平衡ダイナミクス |
研究実績の概要 |
(I)冷却原子系やフォトニック結晶などの制御可能な人工量子系をターゲットに不純物誘起ではない並進対称性を保持した多体局在の発現機構の解明を目標に研究を遂行した。この研究テーマにおいてフォトニック結晶や冷却原子系で構成可能な並進対称なフラットバンド系をターゲットにした. 隣接相互作用が存在した場合どのように短距離エンタングルメントするフラットバンド局在固有状態の波動関数の構造が崩壊していくかを一粒子密度行列法を用いることで明らかにした. 相互作用がない場合のコンパクトな局在波動関数は相互作用により波動関数振幅のコンパクト性は次第に崩壊に向かうことがわかり、フラットバンド多体局在状態から強い相互作用を引加していくとで熱平衡状態に相転移することがわかった。これらの成果を査読付き論文としてまとめ出版した。
(II)人工量子多体系において量子傷跡の構成法を探求し量子傷跡の多体固有状態に対する非平衡ダイナミクスの性質を明らかにする研究に関しての進展については、のこぎり波状の格子構造の格子系を考え、そこでコンパクト局在状態を用いた多体波動関数が大多数の熱平衡多々固有状態の中に少数個存在する特殊な固有状態構造をもつモデルを提案した。このモデルにおいて少数のコンパクト局在状態を用いて構成される多体波動関数は固有状態熱化仮説を破り、系全体としては強い固有状態熱化仮説を破ることを明らかにした。さらに、ある特定の多体波動関数の初期状態を準備しその系での量子エンタングルメントの増大について数値的に詳細に調べると、少数のコンパクト局在状態を用いた多体波動関数に近い初期状態のみが熱平衡化が非常に遅くなることを確認した。これらの進展を査読付き論文としてまとめ出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工量子多体系における並進対称な多体局在についての研究は解析で必要な数値計算コードについて共同研究との議論を多く行うことで開発速度が促進され、対象としている物理モデルの数値計算を早い段階で行うことができた. これによって当初計画していた計算コード開発に関しての期間が短縮されたことからこのテーマについての進展および新奇性のある結果を得ることができた.
また、量子傷跡の研究テーマについても順調に進展した. こちらも共同研究研究者との議論の機会を多くとれたことにより、物理モデルの選定及び、複数の量子傷跡の構成法についてのアイデアを得ることができた. これにより順調に数値計算による量子傷跡の検証に移ることができた. また、数値計算によって得られた結果の解釈も共同研究者との密接な議論により促進され、早い段階で得られた結果を査読付き論文として出版することが可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
今後は人工量子多体系として三体相互作用および4体相互作用を含む1次元量子スピン系に着目し、ランダムネスがない場合でも多体局在現象が生じるかどうかについて研究を進める。 このスピン系において4体相互作用項が存在しても局所的な運動の積分を構成することが解析にわかりつつあるので、まず解析的にモデルの可積分性に関しての考察を十分に行う方針である。またその後、モデルの数値計算コード開発に取り組み数値的に非平衡ダイナミクスの解析を行う. 特に、クエンチダイナミクス下で初期の直積状態が熱平衡化するかどうか、解析的に見出した局所的な運動の積分が非平衡ダイナミクスにどのように影響を及ぼすかを重点的に調べる方策を立てている. また、さらに進んだ展開として、局所的な運動の積分の個数を摂動的に壊していったときにある特定の固有状態のみが強い局在的性質を持つような系に拡張できないかどうか、そこに量子傷跡を構成できるかどうかを考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究のための印刷用コピー用紙、議論で必要なボードマーカー等の消耗品の消耗が少なかったため、この次年度使用額が生じた。 翌年度分として研究関連の消耗品、コピー用紙や議論用のボードマーカー及びリモートでの議論用のイヤホン等に使用を計画している。
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