研究課題/領域番号 |
21K13854
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
矢野 力三 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (80830356)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マヨラナ粒子 / 超伝導近接効果 / 微細加工超伝導接合 / 物質探索 / 単結晶育成 / 磁性トポロジカル絶縁体 / ゲート制御 |
研究実績の概要 |
本研究では将来的に自身が反粒子の性質を持つマヨラナ粒子の実証実験に向けた基盤技術の確立を目指し、ある現象がトポロジカル物質の性質に関与するかどうかの比較検証が可能な物質系の探索と、表面状態の制御をおこなっている。 比較検証を可能にするためには、同一結晶構造、かつ、構成元素も同じでありながらも磁性の有無と、トポロジカル状態の有無の4通りの物質が作り分けできるようにするのが必要と着眼している。これに先立ち、典型的なトポロジカル絶縁体A2B3(A=Bi,Sb;B=S,Se,Te)の比較物質として使われるBi2Se2Sを調べたところ元の結晶構造とは異なり層状構造をとっていない可能性が高いことを確認した。一方でこの周辺組成での物質探索の結果、結晶構造を保ちながらも非トポロジカル絶縁体に近づいている兆候を得ることができた。 磁性トポロジカル絶縁体として注目しているFeBiSbTe2Seのバルクおよび表面状態の観察・評価とゲート制御を用いた輸送特性の制御を試みた。その結果、この物質が現在知られている最も高いバルク絶縁性をもつトポロジカル絶縁体に匹敵するほど高いバルク高絶縁性を安定してもっており、Diracコーンにギャップが開いた部分付近にフェルミ準位が位置していることを明らかにした。さらにイオン液体を用いた表面キャリアのゲート制御によって、表面状態を反映した量子振動の変化も確認した。これはまさにゲート制御することで、表面状態に起因した量子現象を制御できる可能性を示している。今後はこのゲート制御を極低温下でも安定的に微小量変化させることができる手法の確立を行っていく。 これらに加えて、本研究で重要視しているトポロジカル現象の空間的な制御ができうる物質系として特定の面にのみ特殊な表面状態が出現すると期待される新たなトポロジカル物質の開拓と評価技術開発も併せて行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく分けて①磁性とトポロジカル性の有無で異なる特性を持つ物質の開拓、①磁性トポロジカル絶縁体そのものの評価と状態制御手法の確立、②超電導接合を作製し実際にマヨラナ粒子などの特異な粒子のっ存在や現象の観測の3つの実験種別に大別できる。 ①に関しては同一組成、同一結晶構造で完全ではなくともトポロジカル性の有無の作り分けが可能な物質開拓の戦略の一つがうまく意図した方向に物質開拓ができている兆候を輸送特性の評価から得ることが得来た。 ②に関してはFe-BiSbTe2Seがかなり理想状態にちかいバンド状態を実際に持っていて、結晶のかけらごとの特性の違いとしてもほとんど差異がなく安定してこの特性をもっているということを、走査型トンネル顕微鏡(STM)による原子レベルでの局所評価と、マクロな電子状態評価として角度分解高電子分光(ARPES)と輸送特性の評価から確認することができた。 ③超伝導接合としてこれまで作製してきた磁性トポロジカル絶縁体の超伝導接合の評価も併せておこない、通常の物質では見られないような特異なピーク構造などを観測したが、その詳細について理論と合わせて現在評価をすすめているところである。
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今後の研究の推進方策 |
上記の3つの実験の分類で記していく。 ①磁性とトポロジカル性の有無の作り分けに関しては、現在スピン軌道相互作用の大きさと結晶構造安定性という2つの観点から実現可能な物質の組成の割り出しを実際の実験から行っている。これにより、現在知られている同一結晶構造の周辺組成の中ではもっともスピン軌道相互作用が小さく、非トポロジカル物質へと転移する可能性のある物質の作製に期待が持てるようになってきた。この方法により、どこまでスピン軌道相互作用がちいさくできるのかの調査を今後も引き続き行っていく。また、これに加えて磁性元素ドープも活用することで磁性の有無とトポロジカル性の作り分けを目指していく。 ②磁性とトポロジカル性の表面状態の制御を、今後の超伝導接合を視野に入れて微小結晶片を用いても行える手法の確立を現在進めている。表面状態がゲート制御によって確かに変化していることを確認はできたが、今後はより微小量制御が可能になるような手法も開拓していく。さらに空間制御という観点で、3次元の結晶面のうちどの表面を制御するかという選択的な制御が可能になるような手法を模索していく。 ③磁性トポロジカル絶縁体の超伝導接合の作製条件を様々な条件で探ることによって、表面状態を効率的に観測できるかが一般的に変わってくる。特に本研究では結晶の段差や結晶側面の利用など多くの超伝導接合では回避される部分への電極作製技術が求められる。そこでより意図した接合になるように比較的大きめのマイクロスケールの結晶も利用しながら結晶片に対して空間的に超伝導接合を作製する手法を開発中である。この技術の開拓に関しては、空間的に特異な超伝導状態が出現しうる既知の超伝導体やまだ知られていないトポロジカル超伝導体候補物質なども候補として含めて接合作製、および測定技術の開拓を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であったメイワフォーシス製の精密ワイヤーソーは見積を取った時点での価格はトータル約550万円であり、他の科研費との折半により購入予定であった。しかし、その後、競合他社を巻き込んだ価格交渉によって他では聞いたことのない値引きが実現し(約350万円ほど)、こちらでの経費負担は一部のオプション品の負担で抑えることができた。それにより余力金が生じ、次年度へと繰越すこととした。
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