研究課題/領域番号 |
21K13855
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
金子 隆威 近畿大学, 理工学部, 博士研究員 (10881211)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | テンソルネットワーク / 量子多体系 / 非平衡系 / 冷却原子系 / 量子シミュレータ / Rydberg原子 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
本年度はアナログ量子シミュレータで実現可能な模型の中で孤立系かつエンタングルメントが急成長しないような単純なものに注目し、その実時間ダイナミクスをテンソルネットワーク法により数値シミュレーションした。主要な成果は以下の2つである。 (1) 冷却174Yb原子を用いた2次元Bose-Hubbard模型のアナログ量子シミュレータの実験に動機づけられて、Mott絶縁体からのクエンチダイナミクスを計算した。得られた一粒子相関関数は実験結果と良く一致し、2次元テンソルネットワーク法の有用性が確認できた。まだ実験が行われておらず、既存の理論手法では太刀打ちできないパラメータ領域についても一粒子相関関数と密度相関関数を計算した。相関関数のピーク時間を距離の関数として求め、その外挿により得られた傾きから相関伝搬速度を見積もった。その結果、中間の強さの相互作用の領域における相関伝搬速度の振る舞いを明らかにした。今回得られた数値シミュレーション結果は、今後の実験の良いベンチマークとなる。この成果は論文としてCommunications Physics誌に掲載された。 (2) 制御性の高いRydberg原子集団を用いたアナログ量子シミュレータの実験に触発されて、2次元横磁場Ising模型の無秩序相からのクエンチダイナミクスを計算した。転移点近傍のパラメータ領域にクエンチした場合については人工ニューラルネットワークの波動関数を用いた先行研究があり、その結果と今回得られたテンソルネットワーク法による結果がよく一致することを確認した。この結果を日本物理学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究(1)では、光格子中の冷却原子系の基礎的な模型であるBose-Hubbard模型において、2次元テンソルネットワーク法の適用可能性を検証できた。検証だけにとどまらず、元来の理論手法では困難で実験もまだ行われていない領域でのシミュレーションも可能となり、今後の理論および実験への提唱も行うことができた。 研究(2)では、統計力学の基礎的な模型であり、かつ近年活発に進展しているRydberg原子集団で実現可能な模型でもある量子Ising模型において、2次元テンソルネットワーク法が他の最先端な手法の相補的なものになる傍証を得た。 いずれの場合も当初の予定通りに、孤立系かつエンタングルメントが急成長しないような単純な模型について2次元テンソルネットワーク法が有用であることを確認できた。以上のように、本研究課題が概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究(2)に関連して、横磁場Ising模型の場合についても相関伝搬速度を詳細に見積もる。ごく最近大幅に改善された群速度の解析的な上限(Lieb-Robinson限界)と比較することで、この先行研究で得られているLieb-Robinson限界がどこまで窮屈かを議論したい。 また、次年度は初年度よりも複雑な孤立系の模型における実時間ダイナミクスをテンソルネットワーク法により明らかにする。例えば、量子スピン液体の実現が期待される系(三角格子やカゴメ格子などの幾何学的フラストレーションのある系やハニカム格子上のKitaev模型に類似した系)にも焦点を当てて研究を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(未使用額が発生した状況)新型コロナウイルス感染症の影響が依然として大きく、2021年3月の段階では2021年度に行われる予定であった研究会が延期あるいはオンライン参加となった。そのため、該当する出張費・参加費の項目に未使用額が生じた。 (次年度における未使用額の使途内容)2022年3月の段階では、2021年度に延期されたいくつかの研究会が2022年度に開催される可能性が高い。そのため、研究会での学会発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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