研究課題/領域番号 |
21K13857
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
小松 尚登 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, NIMSポスドク研究員 (50812963)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有限サイズ効果 / 全結合模型 |
研究実績の概要 |
磁気摩擦の模型において、摩擦力を相対速度の対数の一次関数として表した際、傾きが系のサイズNに比例して大きくなっていくことが確認されていた他、定常状態への緩和を計算した際に緩和時間がNの増大とともに発散していく現象も見られていた。 通常の熱統計力学では熱力学極限、つまりNを無限大にする極限を考察対象とすることが多いが、こうした現象を理解するために有限サイズ系の振る舞いを考察するための枠組みが必要となった。そのため、まず始めに、摩擦の模型ではないがダイナミクスを解析的に議論できるような統計力学模型を例題として、有限サイズ効果の記述を試みた。 具体的には、Glauber dynamicsの下で動く全結合Ising模型を考えた。全結合模型は平衡系、非平衡系を問わず平均場近似によって熱力学極限の振る舞いを厳密(exact)に記述できるという性質を持つため、Nが有限の場合における平均場近似からのずれを記述することができれば、有限サイズ効果の議論も可能となる。本研究ではこのずれをO(1/N)の摂動とみなして計算することで、有限サイズ系における秩序変数のずれや二体相関関数の時間発展を記述する微分方程式を書き下し、その計算結果が数値シミュレーションと良い精度で一致することを確認した。 この研究成果は論文にまとめ、J.Stat.Mech.にて発表した。また、この研究によって得られた知見は次年度以降に、摩擦の模型における有限サイズ効果の理解のために応用していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要の通り、統計力学の全結合模型において有限サイズ効果を記述する枠組みを得ることには成功したが、本題である摩擦の統計力学模型自体に関する研究については、今のところ論文などの形で外部に発表できるような成果を出せていない。
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今後の研究の推進方策 |
全結合模型を用いた摩擦の模型における有限サイズ効果の解析を研究していく一方で、それと並行して摩擦力の初期値依存性などに関する研究も遂行していく。 具体的には、磁気摩擦の模型の範囲内で、例えば静止摩擦力と動摩擦力の区別が存在する例を構築する研究などを計画している。広く知られているように、通常の固体においては、接触面同士が互いに静止している場合静止摩擦力がはたらき、その最大値である最大静止摩擦力Fを超える外力がかからない限り接触面が動き出すことはない。一方で接触面が運動している場合にはたらく動摩擦力F'は一般的にFを下回る値であるため、一度運動が始まってしまえば、外力をF'より弱めても接触面が運動している状態を維持できる。 こうした性質は統計物理学においてみられる、一次転移に伴う履歴現象などと類似しており、統計力学模型を用いた考察によるメカニズムの解明が期待できる現象である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度末に所属が変更されることになったため、ワークステーション計算機の購入を先延ばしにした。また、それに加え、新型コロナウィルスの流行により講演登録をした学会が全てオンライン開催となったため、旅費が発生しなかったことも重なり、予定していた予算の大部分を次年度に持ち越す形となった。 次年度はワークステーション計算機の購入や学会参加のための旅費などに予算を使用する予定である。
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