研究課題/領域番号 |
21K13861
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長田 有登 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90804138)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオントラップ / レーザーアブレーション |
研究実績の概要 |
本研究においては表面イオントラップ上での原子イオンと光共振モードの強結合状態の実現に向けて、その要素技術となる半導体ミラーの微細加工と基板電極上への転写、レーザーアブレーションによる真空環境への影響の少ない表面イオントラップ系の開発を行うものである。本年度においては表面イオントラップによるストロンチウムイオンの捕獲とレーザーアブレーションによる決定論的な単一イオン捕獲の実証を行った。具体的には、レーザーアブレーションによってストロンチウム原子イオンを発生させ、その光イオン化により同位体選択的に質量数88のストロンチウムイオンを生成した。生成されたストロンチウムイオンにレーザー冷却用のレーザー光源を照射することにより表面トラップが形成する捕獲ポテンシャル中にストロンチウムイオンが捕獲される様子を観測し、最大20個程度のストロンチウムイオンがWigner結晶と呼ばれる連続並進対称性の破れた状態にまでレーザー冷却されることを確認した。レーザーの周波数、強度、トラップポテンシャルの形状などを調整した結果、適切な捕獲条件においては単一のレーザーアブレーションパルスにつき単一のストロンチウムイオンが捕獲される確率が82%と先行研究よりも高確率になることを見出した。また、我々の実験においてもレーザーアブレーションの方法は真空度の悪化、熱的なドリフトなどの実験系への悪影響がほとんどないことを実証した。この成果は査読付き国際学術誌に論文として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の大きな開発要件である表面トラップの構築が進んだ点では大きな進展といえるが、半導体ミラーの微細加工などについてはまだ大きくは進められていない。しかしながらレーザーアブレーションによるイオンの捕獲が本研究の成果のように82%という高確率で単一イオン捕獲が可能である点は予期しなかった点であり、その考察も含めて学術的・技術的な示唆に富むものであったことは望外の収穫であった点は強調したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は半導体ミラーの評価や微細加工プロセス、基板電極上への集積と表面トラップと光共振器の統合へと研究と技術開発を進めていきたい。微細加工プロセスにおいては半導体ミラーの微細加工において転写可能な宙づり構造にするための犠牲層除去工程が現在の技術的難所であり、宙づり構造作製のための塗膜材の工夫によってこれを克服することが可能であると考えられる。
また、レーザーアブレーションによるイオン生成の方法が予想以上に良い性質のものであったことから、これを突き詰める方向としてマルチモードファイバと専用のジグを組み合わせた「イオン銃パッケージ」のようなものの開発にも着手したい。
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