研究課題/領域番号 |
21K13867
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 高史 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00809642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ドット / 単一電子スピン / 非ドープ型量子井戸 / GaAs / 面内pin接合 |
研究実績の概要 |
当該年度に進展して得られた新規の成果としては主に、多重量子ドットを応用してフィードバック制御技術によるスピン操作忠実度を向上した点と、非ドープ型量子井戸基板の研究開発を進展させ量子ホール状態での整流性を確認した点である。研究の最終目的である、ゼロ磁場付近のスピン状態に関する研究を行うための要件として、電気的セットアップの制御技術と、光学的デバイスの研究開発が必要であった。電気系のセットアップに関して、量子ドットのポテンシャル操作、多重量子ドットへの拡張、スピン操作を行うための高周波の導入、スピン状態検出のためのマイクロ波セットアップは、過去の研究で構築されてきた。ここに新たに、測定したスピン情報を高速に解析し、即座にスピン操作用の高周波源にフィードバックするセットアップを先行研究を基に構築した。新規性としては、多重ドットの分子様軌道を利用したスピン共鳴技術の応用と、機械学習手法によるフィードバックの効率化である。その成果として、GaAs系では困難であった忠実度99%以上を比較的容易に実現する方針がたった。このセットアップを応用することで雑音に支配された低磁場での実験を実現しコヒーレンスの議論へと進む可能性も期待されるようになった。また、非ドープ型基板を利用した光学的デバイスは学術的な新規性が高く、今後さらに低次元系での応用が見込まれる点で重要である。今回は、電子系・ホール系のスピンを同一デバイスで誘起できた点が有意義であり、双極的な低次元量子デバイスの開発を加速させるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の成果が早期に確認できたことは想定よりも進展している点として評価できる。その間、所望の精密電圧源の選定が遅れたためにセットアップが完全ではない点と、最終的なデバイスの試作に至らなかった点とが遅れており、全体としては標準的な進展と評価する。 進展している部分に関しては、バックアップとして開発していた微小磁石付き多重量子ドットデバイスが想定以上に継続的に測定できていることである。デバイスが動作したところで、基本的なスピン操作を実現し、先行技術の応用として、高速スピン操作と、新たにフィードバック制御技術を導入した。これにより、GaAs特有の核スピン揺らぎを抑え、スピン量子ビットに影響のある雑音特性を調べるに至った。ただし最終目的のためには微小磁石の再設計が必要であるという認識に至っている。 予期していたなかった点の前者としては、初年度に予定していた量子測定用の精密電圧源が更新され、そのために手配が遅れ、必要経費の補填を必要とした。現在試用しているところであるが、雑音性能と操作速度が飛躍的に向上しており、これまで多重量子ドットの効率的な調整と相いれなかった部分が初めて解消され、物理解析の点で重要な点だと認識している。そのため今後は量子ドットの実験が加速すると想定している。 後者は、非ドープ型デバイスの設計が難航しており、そのために二つのアプローチを継続しており、一つはシミュレーションによるデバイス設計と、もう一つは2次元系による基礎評価である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方策として次年度は、光学系のセットアップを最終系に近づけ、電気系のセットアップを継続して完成へと進め、光学的安定性を備えた量子ドットデバイスの設計を進展させ、最終実験へと集約させる準備を進める。 上記の初年度における進展と並行して、ファイバー系を冷凍機に備える準備を行っている。極低温-室温の双方向に十分な光強度を提供できることまでは確認できているが、偏光状態を正しく導入するための装置を準備中である。 電気系のセットアップは、必要な装置を統合する作業を行う。現状として外注する必要のある作業があるため、柔軟性が乏しく時間を要することが予想されるので早期に取り組んでいく。 光学実験のための非ドープ型量子ドット設計を継続しつつ、試作を早期に開始する。確立してきた非ドープ型基板特有の試料作製方法を適用・発展させつつ、光学用の量子ドット構造を作りこむ。この構造は未だ報告が無いので、試作の段階でも高強度照射と組み合わせた効率的な光-スピン変換量子ドットデバイスとしてまとめることも検討する。
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