研究課題
本研究では昨年度に純良な単結晶育成に成功したYbCu4Auに対して、粉末中性子回折実験、磁化測定、極低温電気抵抗測定、極低温比熱測定実験、極低温ミュオンスピン緩和実験、そして核磁気緩和実験(NMR)を行った。以下ではそれぞれの実験から得られた成果を述べる。YbCu4Auは1.3 Tで磁場誘起の量子臨界点をもつf電子化合物である。現在、量子臨界現象の起源にはスピンと価数の両方の物理量が寄与していることが指摘されている。そこで、本研究では純良な単結晶を合成し、粉末中性子実験では構造解析を、極低温電気抵抗測定および比熱測定では基礎物性の情報を、極低温ミュオンスピン緩和実験ではスピン揺らぎの温度依存性を、NMRでは価数の情報それぞれ調べた。粉末中性子回折実験は、JRR-3にあるT1-3 HERMESで行った。結晶構造は先行研究で報告されているものと低温まで変わらないことを確認した。また、磁化測定からは単結晶試料が先行研究で報告されている多結晶試料のふるまいを再現したことを確認し、単結晶試料が目的のYbCu4Auであることを物性評価からも決定した。電気抵抗測定、比熱測定、ミュオンスピン緩和実験では、ゼロ磁場において2段の磁気転移を示すことを明らかにした。これらの成果は国際会議で発表し、さらに論文にまとめて報告する予定である。NMRでは単結晶の信号を見つけることに成功し、NMRパラメータを決定した。そして、今年度は磁場中の放射光実験も行う予定であるので、NMRの結果と合わせて価数の寄与について議論する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、われわれは純良な単結晶試料のYbCu4Auに対して粉末中性子回折実験、極低温電気抵抗測定、極低温比熱測定、極低温ミュオンスピン緩和実験、そしてNMRを行ってきた。そのほか、合成した試料は磁気冷凍材料に関する応用研究も共同研究として展開してきた。これらは昨年度に申請者が初めて単結晶試料合成に成功したことに起因しており、当初の予定以上に多角的な研究を展開することができた。実験手法についても、単一のプローブではなく、複数のミクロプローブを包括的に利用し、それぞれの結果を国際会議等で報告することができた。これらの実験手法の結果を合わせることで、2種類の磁気転移を示すことを決定した。低磁場領域の電子状態の詳細を調べてきたので、次は高磁場領域に対する実験を予定している。現在は高温でNMRパラメータを決定したところであり、今後は放射光実験の実施もすでに予定されているので合わせて価数の寄与について議論する予定である。
本研究において、高品質な試料合成および多角的なミクロプローブによる実験を行うことができた。特に、YbCu4Auは1 g以上の大型の単結晶試料育成が可能となったので、小型の結晶に対する測定だけではなく、ミュオンスピン緩和実験と中性子実験なども行うことができた。その結果、低磁場領域における物性測定は順調にすすんでいる。今後は高磁場領域を調べる予定で、その詳細を下記に記す。また、これまでの結果は論文にまとめて報告する予定である。中性子回折実験から、目的の単結晶試料であることを決定した。この試料を使って、Cu-NMRおよびYb-L端の実験を行う予定である。NMRは電場勾配の変化を通して価数の温度依存性及び磁場依存性を調べ、放射光実験では低温と高温で価数の絶対値を決定する。これら2つのプローブに対する実験申請書はすでに受諾されており、今年度中に実施できる準備は整っている。本実験に関する結果は国際会議の発表および論文として報告する予定である。
すべて 2021
すべて 学会発表 (1件)