我々が初めて単結晶育成に成功したYbCu4Auに対して、マクロ測定とミクロ測定を包括的に用いた研究を展開した。具体的には、粉末X線回折 (XRD)、粉末中性子回折 (NPD)、核磁気共鳴 (NMR)、磁化、電気抵抗、比熱、ミュオンスピン回転緩和 (muSR)、そしてX線吸収分光 (XAS)測定である。 YbCu4Auの多結晶による先行研究では、1 T近傍に磁場誘起の臨界点が存在し、反強磁性スピン揺らぎの枠組みでは説明できない振る舞いを臨界点近傍で示す物質である。しかし、単結晶ではないために、これまでは詳細な測定ができないことが障害であった。そこで、我々は単結晶育成に挑戦し、数mm程度の単結晶を得ることができた。この機会に研究を律速させるため、複数の測定プローブで物性測定を行うのが本研究の目的である。 今年度はJRR-3にあるT1-2 AKANEで3He冷凍機を用いた粉末中性子回折実験を行った。電気抵抗と比熱測定から、逐次転移が観測されたが、詳細は明らかになっていなかった。そこで、中性子回折実験により、相転移の詳細を決定することを目指した。その結果、逐次転移は結晶の質の偏りによるドメイン効果ではなく、本質的であることが明らかになった。さらに、どちらも磁気転移であることも、muSR測定と合わせることで決定できた。そして、低温相と中間相は1次転移であり、2つの相転移線が重なった点は2重臨界点であることも分かった。本研究結果をまとめた論文は現在、査読中である。
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