研究実績の概要 |
本研究では、モット絶縁体へのドーパント表面吸着による新奇なモット転移の創出に取り組みつつ、元素置換によるキャリアドープが不可能もしくはその効果が不明な強相関物質に対して同手法を適用し、新たな強相関金属相を探索することを目的としている。 本年度は、モット絶縁体関連物質であるCa3Ru2O7や(Pr,La,Ce)2CuO4に対して、アルカリ金属吸着による電子ドープを施しての光電子分光測定を行った。Ca2RuO4の姉妹物質であるCa3Ru2O7では、モット絶縁性が抑制され金属状態が実現する一方で、格子・スピン・電荷の自由度が結合した劇的な相転移が起きることが知られる。アルカリ金属による表面電子ドープを施しながら角度分解光電子分光測定を行ったところ、電子相関が弱まると共に相転移の抑制された新たな金属相が出現し、電子相関と相転移が密接な関係にあることが明らかとなった。また、銅酸化物高温超伝導体(Pr,La,Ce)2CuO4では還元アニールによる反強磁性秩序の抑制が超伝導発現に不可欠であることが知られている。還元アニールには、不純物酸素の除去と電子ドープという二つの効果が知られており、どちらが反強磁性秩序抑制に寄与するのか不明であった。そこで(Pr,La,Ce)2CuO4に対してアルカリ金属を吸着させることで不純物酸素量を変化させることなく電子ドープを行い、角度分解光電子分光測定によって、電子ドープのみによって反強磁性相関を抑制できることを見出した。前年度に行ったモット絶縁体Ca2RuO4における新たなモット転移の創出と合わせて、自由度の高い固体表面を土台に新たな強相関金属状態を開拓しつつ、電子相関やキャリアドープが絡んだ強相関電子系の未解決問題に新たな切り口から解決の糸口を与えた。
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