研究実績の概要 |
本研究では20 Kで2.4 mW/cmK^2の電力因子、および100 A/cmKのペルチェ伝導度という巨大な熱電性能を示す半金属Ta2PdSe6のメカニズムの解明、および元素置換による更なる熱電性能の向上を目指し研究を行った。前年度までで、熱電性能を担うのは高移動度ホールであることを解明した。またTaサイトへのNb, SeサイトへのSといった同価数元素置換を施した単結晶育成に成功しており、今年度はこれらの精密輸送測定を行った。 TaサイトにNbを置換した系においては、置換量40%までの試料育成に成功し、電気抵抗率、ゼーベック係数が系統的に変化した。これにより母物質の有していた低温の巨大な熱電性能は抑制されたものの、80 K付近での電力因子を一桁程度増大させることに成功した。これは、置換により電子状態が変化し、より高温まで高い熱電性能を司るホールキャリアの伝導が維持されることを示唆している。一方で、SeサイトへのS置換では置換量20%までの試料育成に成功した。興味深いことに、およそ5 %の置換によって、母物質で見られた20 K付近における+40μV/K程度のゼーベック係数が消失し、全温度領域でゼーベック係数が負になるという劇的な変化を観測した。このことは高移動度のホールが存在する電子状態はSeサイトの変化に対して極めて脆弱であることを示唆している。 さらに、Sで完全に置き換えたTa2PdS6に関しても物性測定を行い、半導体的な電気伝導と、-400μV/Kを超える多きなゼーベック係数を示すことを発見した。これらの物性値によってTa2PdS6は室温付近でBi2Te3に匹敵する電力因子を示す。Ta2PdSe6のSeサイトへのS置換は、系の電子状態を金属から絶縁体に変化させる効果があると言え、その結果先述した劇的な輸送現象の変化をもたらしたと考えられる。
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