研究課題/領域番号 |
21K13879
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
中村 翔太 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40824892)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | キラル磁性 / 反対称スピン相互作用 / 磁気相互作用の制御 |
研究実績の概要 |
キラル金属磁性体Yb(Ni,Cu)_3_Al_9_のキラルらせん秩序について基礎物性データの収集を行った。この物質では6%の銅置換によって母体に比べて、らせん周期が2倍、臨界磁場が10倍、磁気秩序温度が2倍にそれぞれ増加する一方で、磁化や電気抵抗をはじめとする各物理量の定性的な振る舞いは母体とよく一致することがわかった。このことは、基礎物性には「らせん」の性質が強く反映されていることを示唆する。 磁場による「らせん」の変化を細かく調べるために、磁場方向をらせん軸に垂直方向から平行方向へ傾けて磁場角度回転実験を行った。らせん軸と垂直方向に磁場を印加した場合に比べて十倍程度の高磁場まで、キラルらせん秩序状態が維持されていることを明らかにした。また、らせん軸に垂直な面内では、磁気モーメントが自由に回ることを反映して、等方的であることがわかった。この成果については、日本物理学会などで口頭発表を行った。 Yb(Ni,Cu)_3_Al_9_では、らせん軸に垂直方向に磁場を印加したとき、一軸らせん磁気構造で“ひねり”(ソリトン)が周期的に配列したキラルソリトン格子が発現する。磁場を増加させていくと、“ひねり”の数が減少していき、最終的には強制強磁性状態になる。強い磁気異方性を反映してらせん軸に平行方向では、この“ひねり”の数の減少が著しく抑制されることがわかった。今後、この磁場方向における測定は、“ひねり”の1つからの情報を得る突破口になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キラル金属磁性体Yb(Ni,Cu)_3_Al_9_の磁化、比熱、ホール効果を測定し物性の基礎データを集めることができた。また、交流磁気抵抗測定環境を構築し、2Kまでの低温において抵抗の磁場と温度依存性を測定できる環境を整えた。当初の計画では今後、極低温においてもこれらを測定する予定であったが、ヘリウム価格高騰によって計画を見直さなければならない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
キラル金属磁性体Yb(Ni,Cu)_3_Al_9_において交流磁気抵抗の周波数依存性や高調波の測定を行うことで、その動的応答からDzyaloshinskii-Moriya(DM)の反対称スピン相互作用の大きさに起因するキラルらせん磁気構造の詳細な構造を明らかにする。また、臨界磁場近傍かつ、らせん軸に平行方向近傍の磁場下で“ひねり”の数の少ない状態を作りだし、“ひねり”の1つからの情報を得るとともに、共鳴現象による“ひねり”(ソリトン)の滑走を試みる。 上記の方法でキラルらせん磁気構造の詳細が明らかになったときには、他のキラルらせん秩序を有する物質たとえばDy(Ni,Co)_3_Ga_9_やGd(Ni,Co)_3_Ga_9_において同様の測定を行い、今回構築した測定環境の有用性の評価を行う。 また、ANSTOと共同で非弾性中性子散乱実験を進めており、CSLの動的応答、すなわち、分散関係から、交換相互作用やDM相互作用の大きさを見積もる。本研究で交流磁気抵抗から定めたDM相互作用の大きさと比較することで、本研究手法の有用性を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入予定であったロックインアンプ購入を次年度にずらしたため、次年度使用額が生じた。次年度予算に合算して当該装置の購入費用に充てる予定である。
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