研究課題
局在スピンが絶対零度においても秩序化・凍結せずに揺らいでいる状態を量子スピン液体と呼ぶ。その中でも量子スピン液体状態を基底状態として持つキタエフ模型は、局在スピンがマヨラナ粒子に分数化するため非可換エニオンなどのマヨラナ粒子によるトポロジカル励起を探索する格好の舞台となっている。 キタエフ模型候補物質としてはα-RuCl3が知られており、この物質はゼロ磁場ではおよそ7K以下でジグザグ型の反強磁性秩序を示すが、Ruが形成するハニカム格子面内に7T以上の磁場をかけると磁気秩序が抑制され、磁場誘起常磁性状態となる。この磁場で誘起された常磁性状態において量子スピン液体状態を実現しているかどうかが論争の的となっており、磁場誘起常磁性状態における相転移の有無を検証するのが重要な課題となっていた。以上の背景から、本研究計画ではキタエフ型量子スピン液体候補物質であるα-RuCl3の単結晶試料において、磁場中の比熱・熱伝導度の精密測定を行った。熱伝導測定では11T程度の磁場で不連続なジャンプを観測し、一次相転移が存在することを明らかにした。さらに比熱測定では同じ磁場でピークを伴った異常を発見し、一次相転移が存在する熱力学的な証拠を得た。さらに、以前に報告された同一の単結晶試料における熱ホール伝導度は11Tに非常に近い磁場で半整数量子化値からズレ始めるため、今回の測定で観測された一次相転移が系のトポロジーに影響を与えていることを強く示唆している。 以上の結果について論文としてまとめて投稿し、査読有りのジャーナルであるJournal of the Physical Society of Japanに出版された。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 91 ページ: 124703
10.7566/JPSJ.91.124703
Physical Review B
巻: 106 ページ: L060410
10.1103/PhysRevB.106.L060410