研究課題/領域番号 |
21K13886
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
山本 慧 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 副主任研究員 (10746811)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁性体 / スピン波 / 非線形性 |
研究実績の概要 |
本研究計画では磁性体を人工的に加工することでそこを伝播するスピン波に非相反性を付与するための理論研究が目的である。 令和4年度は、強磁性薄膜に周期的に空孔を加工した場合のスピン波伝播を、現象論的な観点から効率よく記述できる理論モデルの構築を行なった。このモデルでは磁性体は格子状に並んだ磁気モーメントによって表現され、それらのモーメントの間に周期構造に依存した主に磁気双極子相互作用に由来するトルクが働く。与えられた周期構造からどのような相互作用をモデルに含めるべきかに関する指針を与え、三角格子やハニカム格子状の周期空孔の場合に適切に対称性を下げればスピン波の分散関係に非相反性が生じることを具体的な計算で示すことができた。この際に長距離相互作用である磁気双極子相互作用のフーリエ変換を数値計算する必要があるが、その収束が非常に遅いためEwaldの方法と呼ばれる特殊な変換を施してから数値計算を行う計算コードを開発した。これらの結果をドイツカイザースラウテルンの実験グループに提供し、現在実際に試料作成が可能かどうかを検討してもらっている。 これと並行して、関連した課題であるスピン波の非線形効果に関する研究を昨年度から継続して進めてきた。スピン波とマイクロ波空洞共振モードが結合している場合の非線形効果によってマイクロ波スペクトルが変更を受けるメカニズムを理論的に解明し、対応する実験とともにPhysical Review Lettersに発表した。またスピン波の非線形効果によって特定のスピン波モードの寿命が1桁以上長くなるメカニズムの理論的解明に貢献し、対応する実験結果をまとめた論文が現在Nature Physicsの査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁性体の加工によるスピン波非相反性の獲得に関しては、理論的基礎は令和4年度にほぼ完成させることができた。一方関連したテーマであるスピン波の非線形効果に関しては、当初予期しなかった新現象とそのメカニズムの解明で着実に成果を上げることができつつある。周期加工と非相反性については、実験グループの進捗待ちの部分があるが、既に次の対象を見つけて新しい理論計算を始めつつある。スピン波の非相反性についても複数の新しい実験結果の解析に携わっており、どちらのテーマも今後も発展が見込まれる。以上により、「おおむね順調に進展している。」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、スピン波と表面弾性波が混成している場合に、材料表面に周期加工を施すことで非相反性が生じることを示す理論計算を行なっていく予定である。この研究に関しても実証実験が進行中であり、そちらのデータ解析も並行して行なっていく。スピン波の非線形性については、これまではパラメトリック不安定性と呼ばれる現象に注目してきたが、現在その次の段階にあたる自励発振とカオスの発達に関する理論をスピン波のスペクトル解析に応用する研究を行なっている。また対象もこれまでの強磁性体から、反強磁性的に結合した強磁性体二層膜に広げていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う渡航制限のため令和3年度に予定していた打ち合わせ出張が令和4年度に後ろ倒しになり、その分予定していた別の打ち合わせ出張を実施する適切な時期が見つからなかったため、次年度使用額が生じた。これらは主に実験に携わる共同研究者との打ち合わせであるため、次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、令和5年度以降、研究の進捗状況に合わせて訪問先を検討して、適宜実施する出張に係る経費として使用する。
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