研究課題/領域番号 |
21K13890
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
赤田 圭史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50815892)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レオロジー / 非ニュートン流体 / コロイド |
研究実績の概要 |
粒子とポリマーからなる一部のコロイド懸濁液では,せん断応力を印加すると粘度の増大(ダイラタント)が発生する。衝撃により硬化する特性を活かした衝撃吸収材料などへの応用が見込まれており,特性制御のための現象の機構解明が望まれる。ダイラタント現象の要因はコロイド粒子・高分子鎖の凝集であると考えられている。しかしこの現象はせん断を加えた動的なプロセスで発生し,せん断応力が失われると粘度が元に戻るので,応力印加と物性計測を同時に行う必要がある。そこで本研究ではX線透過レオメーターセルを使った粘度と小角X線散乱の同時測定(Rheo-SAXS)によって,リアルタイム構造観察によるシリカとポリマーの凝集プロセス解明に取り組んだ。 Rheo-SAXSで得られたスペクトルのピーク変化から,シリカがクラスター構造を持って分散しており,粘度の増大に伴う流れ方向のシリカクラスター間隔の縮小を明らかした。元素選択的な小角中性子散乱(SANS)測定によって,このピーク変化がシリカに由来することを確認した。大きな構造を測定できる極小角X線散乱測定(USAXS)による広範囲の構造変化の解析では,粘度増加に伴いポリマーが凝集したfloc構造が形成され,さらに流れに沿って整列していると明らかになった。これはダイラタントの発生において,ポリマーによるシリカ粒子間の架橋が重要な要因であることを示している。 ダイラタント現象におけるポリマーの重要性は,シリカ粒子の周囲の水和構造の変化からも調べられた。液中AFMを用いた水和構造の観察から,ポリマー濃度とシリカの周囲の水和構造の乱れに相関があることが分かった。これからシリカを囲むように存在するポリマーが周囲の水和構造を乱していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は円筒型レオメーターを使用して,ダイラタント現象中のリアルタイムSAXS測定を行った。ダイラタント特性はコロイド粒子の粒径やポリマー濃度に大きく依存する。従ってSAXSの測定範囲に構造を持ち,せん断応答が明確,かつサンプルのずり上がりが少ない必要があり,様々な条件を試み最適なサンプル条件をつきとめた。Rheo-SAXSとRheo-USAXS測定で得られたスペクトルから,クラスター構造をとりながらシリカ粒子が分散し,floc構造の形成を明らかにした。 ポリマーネットワークを作る系に,異方性も交えて構造を議論したのは初めての試みである。さらにJ-PARC BL15 TAIKANのSANSを利用した測定も実施した。SANS測定ではSAXSスペクトルの元素同定を行い,スペクトルの大部分がシリカに由来することを突き止めた。 また当初の計画になかった液中AFMの測定も取り入れて,マクロな情報のみでなくシリカ粒子近傍数nmのミクロな水和構造も明らかにした。顕微測定も組み合わせた多角的な測定が可能になり,より詳細な理解に繋がると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
Spring-8 BL40XUビームラインでは同施設でも最も高いフォトン数が得られる。この高強度X線と高速カメラを利用して,極短時間の構造変化の測定が可能であるので,次年度はmsec時間分解のRheo-SAXS測定を行う。せん断印加開始から数秒の時間スケールでゲル化が起こるサンプルを利用し,平常状態からゲル化までの間に起こる内部の構造変化の時間発展を明らかにする。 BL19のUSAXS測定でも時間分解測定を計画している。入射光のシャッター開閉時間が問題となるので,高速シャッターを持ち込み自作の制御プログラムでビームラインの測定系と連動させて入射光を遮ることで,BL40と同等の時間スケールでのストロボ撮影を実現する。 平行してより高速な動作を可能にするピエゾデバイスの作製を進めており,回転式レオメーターより早いせん断速度を印加可能にする。動作の安定性を向上させて2022年度の実験に使用したい。 液中AFMにおいてもさらにサンプル条件を変えて水和構造の変化を調べる。初年度の実験ではPEG密度のみをパラメータにして水和構造変化を調べたが,次年度からは分子量,シリカ粒径などのサイズが水和構造の乱れに及ぼす影響を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナによる渡航制限により,国際学会等の渡航費用が不要となったため。
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