研究課題
本研究では、イオン液体を含めたイオン性両親媒性分子の薄膜を作製し、その物性を明らかにすることを目的とする。その物性・構造相関を調べるため、非接触で薄膜構造を解析する手法が必要となる。中性子反射率は基板表面や液体表面の分子膜を、重水素化物によるコントラスト変調で、精度良く測定することができる。今回、中性子反射率測定を効率化するため検出器の性能評価を行い、測定に必要な検出効率を有していることを確認した。また、シリコン基板表面に生成する熱酸化膜の厚さを、一定の精度で制御し、校内の装置を使用して作製することに成功した。異なる極性をもつ両親媒性分子の基板吸着挙動を中性子反射率により評価することで、別の中性両親媒性分子を添加した際の吸着膜の構造に電荷の正負が影響を与えることが明らかとなった。表面張力測定から、気液界面における分子の吸着量を算出した結果、中性分子の添加量の増大とともに吸着量が減少することがわかった。さらに、動的光散乱測定によってバルク中のミセル径が中性分子の添加量の増大とともに増大することを見出している。同じ系に対して中性子反射率測定を行った結果、固液界面における吸着量の溶液濃度依存性は気液界面とは逆の傾向を示しており、添加する中性分子の量の制御が重要であることがわかった。イオン液体混合系の物性に関しては、気液界面では表面張力に変化がないものの、固液界面での表面張力が特異的となる濃度があることを見出した。何らかの構造が反映されていることが期待できる。
3: やや遅れている
研究実績の概要で述べたように、基板へ分子が吸着する機構と電荷の一般的な影響についてはおおむね予定通りの成果を挙げている。ただ、当初の目的であったイオン液体混合系の薄膜形成については、校内における基板表面の熱酸化膜の作製に時間を要したため、生成膜の成否判定に必要な構造評価に関して、やや遅れが生じている。
両親媒性分子のもつ電荷と表面吸着に関する基礎データが得られたため、その結果を精査して原著論文として執筆を開始する。また、構造解析に関する問題点が解決されたため、イオン液体の薄膜を作製してその構造を解析し、目的とする薄膜の実現を目指す。そのうえで誘電率、粘度、摩擦特性といった物性を評価し構造形成の機構を調べるとともに、応用の可能性についても検討する。
当初出席する予定であった国際会議がハイブリッド開催となり、旅費が当初計画よりも縮減されたため。残予算の大部分はデータを解析するために必要な電子計算機と、中性子実験に必要な重水素化試薬の購入に充てる予定である。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 1040 ページ: 166988~166988
10.1016/j.nima.2022.166988
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