研究課題
本研究の目的は、核融合炉実現のために重要な高性能プラズマの高速かつ高精度な分布制御手法を確立するため、(a)輸送障壁の位置決定機構を体系的に明らかにし(輸送障壁の位置決定機構の解明)、(b)位置決定に重要なプラズマパラメータの制御を介してプラズマ圧力分布を実時間制御するシステムを開発・実証する(輸送障壁の位置制御手法の開発・実証)ことである。令和3年度は(a)及び(b)に関連してそれぞれ以下の研究を実施した。【a. 輸送障壁の位置決定機構の解明】LHDにおける電子内部輸送障壁(e-ITB)の維持・崩壊について、乱流の特性に関する重要な知見を得た[第38回プラズマ・核融合学会年会 若手学会発表賞 正会員部門 受賞、2021]。e-ITBの崩壊時に、プラズマ中で乱流が熱よりも極めて速く移動するという、乱流の新たな特性を世界で初めて発見し、核融合プラズマの乱流の理解が飛躍的に進展した。本成果は、予兆となる乱流を観測することで、プラズマの温度変化を予知できる可能性があることを示している。今後、これを基に、プラズマの温度をリアルタイムで制御する手法の開発が期待される。【b. 輸送障壁の位置制御手法の開発・実証】予めプログラムされた制御シナリオを用いて、電子サイクロトロン駆動電流および中性粒子ビーム駆動電流の分布を制御することで、磁気島位置を制御し、それによりe-ITBフット位置を制御した。これにより、放電中に指定した位置にe-ITBが形成される圧力分布形状に制御できることを実証した。この知見を元に、実時間でトムソン散乱計測による電子温度・密度分布の情報を取得し、深層学習を用いて電子サイクロトロン加熱システムを制御し、プラズマ放電中に電子サイクロトロン電流分布を制御するエッジAIシステムの開発を進めた。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度の当初目標は、(a)輸送障壁の位置決定機構を体系的に明らかにし、(b)位置決定に重要なプラズマパラメータの制御を介してプラズマ圧力分布を実時間制御するシステムの開発に着手することであった。(a)に関して、輸送障壁の維持や性能を制御するパラメータを明らかにし、予めプログラムした制御シナリオにより指定した圧力分布となるような制御を実証した。(b)に関しては、(a)で得られた知見を元に、圧力分布を制御するために有効なアクチュエータとして電子サイクロトロン加熱(ECH)が重要であることをLHDプラズマにおいて実証し、実時間でECHを制御するためのエッジAIシステムの開発を進めた。上記2点の研究成果により、本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる。
令和3年度に開発した電子サイクロトロン加熱制御のためのエッジAIシステムを、LHD実験に適用してプラズマ圧力分布の実時間制御手法を実証する。加えて、LHDプラズマ実験において、近年開発された高性能な計測群により、e-ITBプラズマにおける多様な物理量の計測情報を元に、輸送障壁の位置決定機構に関する知見を深め、圧力分布の制御により効率的なアクチュエーターを探索する。本研究課題の成果をまとめ、国際論文誌Scientific Reportsに論文を投稿し、核融合科学研究所にてプレスリリースを行う。
物品費に関して、コロナ禍などが原因となり、当該年度に使用予定の半導体製品の発売や納期が当初予定よりも大幅に遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度に該当製品が発売され次第、購入予定である。旅費に関して、研究成果を報告するための学会・研究会参加のための費用として確保していたが、コロナ禍の影響により各種集会が中止・延期されたため次年度使用額が生じた。コロナ禍の状況が改善され次第、学会報告費として使用する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Nuclear Fusion
巻: 62 ページ: 026041~026041
10.1088/1741-4326/ac412c
Review of Scientific Instruments
巻: 92 ページ: 073501~073501
10.1063/5.0043875
https://researchmap.jp/nkenmochi/