研究課題/領域番号 |
21K13901
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
釼持 尚輝 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (80781319)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核融合 / プラズマ物理 / プラズマ制御 / 内部輸送障壁 / エッジAI / 非局所輸送 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、核融合炉実現のために重要な高性能プラズマの高速かつ高精度な分布制御手法を確立するため、(a)輸送障壁の位置決定機構を体系的に明らかにし(輸送障壁の位置決定機構の解明)、(b)位置決定に重要なプラズマパラメータの制御を介してプラズマ圧力分布を実時間制御するシステムを開発・実証する(輸送障壁の位置制御手法の開発・実証)ことである。 令和4年度は(a)及び(b)に関連してそれぞれ以下の研究を実施した。 【a. 輸送障壁の位置決定機構の解明】大型ヘリカル装置における電子内部輸送障壁(e-ITB)崩壊時の熱雪崩現象において、熱パルスに先行して伝搬する乱流パルスを初めて観測した。乱流パルスと熱パルスは、e-ITBのフット付近で発生し、拡散時間よりもはるかに短い時間で周辺部まで伝播することが確認された。乱流パルスの伝搬速度は約10km/sで、1.5km/sで伝搬する熱パルスの伝搬速度より速い。熱パルスの伝搬速度は理論予測とほぼ同じであるのに対し、乱流パルスの伝搬速度は理論予測よりも1桁以上速く、非局所輸送の物理に重要な知見を与える。本成果は、予兆となる乱流を観測することで、プラズマの温度変化を予知できる可能性があることを示している。今後、これを基に、プラズマの温度をリアルタイムで制御する手法の開発が期待される。本研究成果は国際誌に掲載され、核融合科学研究所にてプレスリリースを行い、第17回日本物理学会若手奨励賞を受賞した。 【b. 輸送障壁の位置制御手法の開発・実証】京都大学村上定義教授、森下侑哉助教(当時博士課程学生)らが開発したデータ同化システムASTIを、本研究で開発を進めているエッジAIを用いた加熱・粒子補給制御システムと組み合わせてLHDプラズマの温度・密度制御に適用することに成功し、統計数理分野においても世界初となるデータ同化による物理現象の制御事例となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の当初目標は、(a)輸送障壁の位置決定機構を体系的に明らかにし、(b)位置決定に重要なプラズマパラメータの制御を介してプラズマ圧力分布を実時間制御するシステムを開発し実験に適用することであった。 (a)に関して、輸送障壁の位置決定に重要な役割を果たす非局所輸送に関する世界初となる発見を行い、論文発表などを行った。 (b)に関しては、(a)で得られた知見を元に、令和3年度に開発した電子サイクロトロン加熱(ECH)を実時間で制御するためのエッジAIシステムを、LHD実験に適用するための動作検証を進めた。 上記2点の研究成果により、本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に開発・動作検証を進めた電子サイクロトロン加熱制御のためのエッジAIシステムを、LHD実験に適用してプラズマ圧力分布の実時間制御手法を実証する。加えて、 LHDプラズマ実験において、近年開発された高性能な計測群により、e-ITBプラズマにおける多様な物理量の計測情報を元に、輸送障壁の位置決定機構に関する知見を深め、圧力分布の制御により効率的なアクチュエーターを探索する。 本研究課題の成果をまとめ、国際会議IAEA-FEC2023で報告し国際誌に論文投稿を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関して、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などが原因となり、当該年度に使用予定の半導体製品の発売や納期が当初予定よりも大幅に遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度に該当製品が発売され次第、購入予定である。 旅費に関して、研究成果を報告するための学会・研究会参加のための費用として確保していたが、コロナ禍の影響により各種集会が中止・延期されたため次年度使用額が生じた。コロナ禍の状況が改善され次第、学会報告費として使用する予定である。
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備考 |
第17回日本物理学会若手奨励賞受賞。受賞タイトル「磁場閉じ込めプラズマの非局所輸送に関する実験的研究」
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