研究課題/領域番号 |
21K13903
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
小林 真 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (50791258)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 照射欠陥 / タングステン / トリチウム |
研究実績の概要 |
本年度は、タングステンをモデル材料として、重イオン照射時及びその後の加熱(アニーリング)過程における照射欠陥密度を評価するためのプログラムを作成し、その妥当性評価を行った。重イオンとして照射実績の多い6.4MeV鉄イオンを選択し、鉄イオンのタングステン内部への侵入深さ、原子空孔生成確率などをSRIMコードにより見積もった。この計算をプログラムのインプットデータとして解析を行った。 プログラムでは、鉄イオンにより生成する原子空孔及び格子間原子の熱的・非熱的相互作用・拡散・熱分解などをすべて数式化し、速度論モデルにて統合した。このプログラムについて、鉄イオンの照射時間、照射温度、照射速度を変化させた際の原子空孔密度を評価した。 数百K程度の比較的低温条件における計算結果として、6.4MeV鉄イオンの飛程から表面周辺のバルク領域にかけて、比較的均一な原子空孔分布が得られた。さらに、100nm付近から最表面にかけて、原子空孔密度が上昇する結果を得た。この結果は過去に行われた鉄イオン照射タングステンへ重水素吸蔵させた際の重水素の深さ分布と一致した。この表面付近で原子空孔密度が上昇する挙動については、タングステン表面において拡散の速い格子間原子が消滅することで、原子空孔・格子間原子の再結合速度が低下し、結果として残留する原子空孔密度が高くなることがわかった。また、照射量0.3dpa付近から原子空孔密度の上昇が緩やかになり、この結果も実験結果と一致した。 計算の妥当性評価試験を並行して進めた。タングステン箔に対し、加速器による3MeVプロトンビーム照射を実施し、照射欠陥を導入した。この試料に対し、重水素・トリチウム吸蔵試験及び滞留量評価を行うための実験準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
照射欠陥密度を評価するプログラム開発については概ね順調に進んでいる。一方、プログラムの妥当性評価試験のために行った加速器を用いたイオンビーム照射及び重水素滞留量評価についてはやや遅れている。 具体的な原因として、照射欠陥の導入量が非常に小さいため、滞留した重水素の分析が困難なことが挙げられる。この解決のため、分析装置の感度校正などを行ってきたが、期待される感度がまだ得られていない。 この状況を打開するため、当初の解析手法から別の手法に変更することを考えている。この手法では重水素ではなくトリチウムを使用することで、トリチウムから放射線を高感度で計測するもので、現状の問題を解決できるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きプログラムの解析状況を変化させた際の原子空孔密度の変化について計算を進める。具体的にはこれまで照射実績の多い、6.4MeV鉄イオンと20MeVタングステンイオンについて計算を行い、文献値との比較を行う。これらの結果についてまとめ、論文投稿を予定している。 また、プログラムの改造についても並行して進める。現在のプログラムでは電子顕微鏡などで確認できる大きなサイズの原子空孔を取り扱えないため、基礎方程式を修正することで取り扱い可能とする。 プログラムの妥当性評価実験として、電子ビーム照射も行う。電子ビーム照射したタングステンに対し重水素・トリチウムガス曝露を行い、その滞留量を調べることで原子空孔密度を評価する。プロトンビーム照射についても引き続き行うと共に、照射温度を上昇させた際の原子空孔密度変化についても調べ、プログラムによる計算結果との比較を行う。 最終的な目標は中性子照射下での原子空孔密度の評価であるため、中性子照射における原子空孔導入速度やカスケード散乱の頻度などの計算を行う。この結果をインプットデータとしてプログラムに取り込み、中性子照射環境下における原子空孔密度を見積もる。これまでに行った中性子照射したタングステン中の重水素滞留量などの文献値と比較することでプログラムの実行性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の精査により若干予算が余った。 次年度分の消耗品費に充てる予定である。
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