本研究では,数十億年間の大気組成変遷を再現して放電させ,生成される活性種反応場の解析・制御と細胞生理応答計測を同時に行う「効率的な新規生理活性分子種スクリーニング実験系」によって,新規生理活性分子種(群)を同定,その制御合成を行うことを目的としており,最終年度は以下の研究成果を得た. 1.前年度までの知見を基にして,周辺大気から五酸化二窒素を,選択的(10以上の選択比)かつ高濃度(300 ppm以上)で,その場合成可能な新しいプラズマ装置の開発に成功した.熱分解性と吸湿性により貯蔵困難であった五酸化二窒素を簡易にその場合成できるようにした意義は大きく,五酸化二窒素の利用障壁を大きく下げる発明である. 2.五酸化二窒素を含む気相素反応をさらに理解するべく,五酸化二窒素とオゾンなどの反応を実験的に調べ,より正確な0次元化学反応モデルの構築に成功し,このシステムを用いることで三酸化窒素の合成も可能であることを予測した.また,五酸化二窒素と18種のアミノ酸との反応を調べた結果,L-トリプトファンとL-チロシンを高効率にその場でニトロ化修飾可能であることを明らかにした. 3.選択合成した五酸化二窒素を植物に噴射すると,わずか30秒間の短時間処理で,一時的にCa2+シグナルが活性化すること(さらには照射葉から非照射葉への伝搬が生じること),数日単位の植物免疫活性を誘導できることを明らかにし,五酸化二窒素が新しい生理活性分子になり得る可能性を見出した.
|