Qカーボンは,膜中の炭素sp3構造の割合が高く,強磁性を示す超硬質アモルファスカーボンである。本研究では,プラズマ成膜プロセスにおいて,堆積膜最表面層の温度条件を制御することで,薄膜状のQカーボンを創製し,プラズマプロセスによるQカーボン合成条件を明らかにすることを目指した。Qカーボンは,従来材料以上の高機能表面保護膜や,磁気抵抗ランダムアクセスメモリなどの次世代デバイス材料になり得る可能性を持っており,薄膜化によって,これらQカーボン応用の劇的な進展が期待できる。 既存の自己電流型フィルタードパルスアークプラズマ成膜装置をベースとし,基板ステージ側にRFプラズマを生成可能な改造を施した。パルスアークプラズマ成膜装置を用いて,アモルファスカーボン膜の形成を試みた。パルス幅5ms,放電回数8500回の条件にて,Si基板上に膜厚20nmのカーボン膜が得られた。作製したカーボン膜の膜密度は3.14 g/cm3であった。高い膜密度を持つアモルファイスカーボン膜は,膜中の炭素sp3構造の割合が高い傾向にあることが知られており,アモルファスカーボンの中でも硬質な膜であるテトラヘドラルアモルファスカーボン膜が得られたと考えられる。 ステージを電極としたRF水素プラズマを生成し,入力電力およびプロセス圧力の各条件に対して生じるセルフバイアス電圧を明らかにした。入力電力を約20~60W,圧力を1~40Paとした条件の中で,セルフバイアス電圧は約-100~-300 Vの値を示した。本研究により,炭素sp3構造の割合が高いアモルファスカーボン膜を形成可能な装置内に,RFプラズマの生成が可能であることを示した。今後は,パルスアークプラズマとRFプラズマを併用した成膜プロセスを進め,堆積膜最表面温度を制御することで,Qカーボン膜の合成を目指す予定である。
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