研究課題/領域番号 |
21K13909
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研究機関 | 一関工業高等専門学校 |
研究代表者 |
林 航平 一関工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (20771207)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ダークマター / 銀河動力学 / ビッグデータ / すばる望遠鏡 |
研究実績の概要 |
宇宙の物質の約8割以上はダークマターという正体不明の物質で占められている。この正体を明らかにするため、これまで様々な理論的、観測的アプローチがされている。本研究では、ガンマ線やエックス線を用いたダークマターシグナルの検出及びダークマターモデルパラメータへの制限に着目し、この研究に最適な天体である銀河系矮小銀河のダークマター分布に焦点をあてる。このダークマター分布を精度良く決定することが、本研究の鍵となる。しかし、矮小銀河ダークマター分布の高精度決定には解析モデルや観測による不定性を正しく考慮する必要がある。特に矮小銀河のメンバー星ではない、銀河系ハロー星などのコンタミネーションの影響は無視できない。本研究では機械学習を取り入れることでコンタミネーションの影響を抑えた解析モデルの構築を目指す。 本年度は、機械学習を行う際の教師データとなる矮小銀河メンバー星と銀河系ハロー星の模擬データの生成を主に行った。矮小銀河メンバー星の空間、速度分布の生成では、作用変数で表現した分布関数を用いた。そして様々なダークマター分布を仮定し分布関数を計算することで、仮定したダークマター分布を反映したメンバー星の動力学情報を得ることができる。また、恒星進化モデルと初期質量関数を用いることで、メンバー星の明るさや色、金属量の理論モデルを作成した。一方コンタミネーションとなる銀河系ハロー星の模擬データ生成に関してはGalaxiaと呼ばれる銀河系全体の模擬データを作成するコードを用いた。さらに、すばる超広視野カメラ(HSC)と超広視野多天体分光器(PFS)の観測性能と観測時間を考慮し生成した模擬データを模擬観測することで、より現実的な観測エラー含めた観測データを作成した。 今後は作成した模擬データを教師データとし、恒星の化学動力学情報からメンバー星を精度良く同定できるよう機械学習のコードを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の機関異動および、それに伴う業務内容の大幅な変更があり、研究計画当時の想定に対して研究時間が減少してしまったことが挙げられる。 また、すばる望遠鏡に搭載予定の超広視野多天体分光器の試験観測などが始まり、実際の機器性能が少しずつ明らかになってきたことにより、模擬データ生成をする際の観測誤差などの再検討、再計算を行っていることも理由の1つとして挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、機械学習を取り入れた矮小銀河メンバー星評価のコード構築に集中的に取り組んでいく。生成した模擬データには恒星の空間分布、速度分布、等級、色、金属量、化学組成、恒星大気パラメータなど、より詳細な情報が含まれている。これらをフルに用いることで、矮小銀河メンバー星を同定できるよう学習させる。そして観測的不定性を考慮した模擬観測データに適用させ、より現実的な状況下でのメンバー星の判定精度を評価する。この手法は、矮小銀河メンバー星を同定するための重要な恒星情報の組み合わせを知ることも可能となる。この知見を得ることは、将来の天文観測にどんな観測装置や性能が必要となるのかを提示することができる。 一方、メンバー星同定で得られたデータを用いた動力学解析モデルの構築も行う。具体的には、軸対称系での無衝突ボルツマン方程式に対して、速度のモーメントを計算する事で速度分散(2次モーメント)、歪度(3次モーメント)、尖度(4次モーメント)を導出する。このモデルを得られた模擬観測データに適用し、矮小銀河ダークマター分布決定を行う。従来のメンバー星同定方法での結果と比較することで、この解析モデルの有用性を示す。 以上の解析結果に基づき、すばる望遠鏡での観測計画だけでなく、将来のガンマ線やエックス線を用いたダークマター間接的検出実験計画の科学的に意義に関する議論や提案への情報として広く提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中、コロナ禍の影響により当初予定していた、出張がほとんど行けなかったため当該助成金が生じた。また、本年度中に研究内容の論文掲載に至らなかったことから、論文投稿料分の当該助成金が生じた。この2点が主な理由である。 翌年度は、本年度分も含めて研究会や共同研究者との議論のための出張を積極的に行い、研究のさらなる推進をはかる予定である。国際研究会にも積極的に参加し、自身の研究成果を広く発表する。その際の国際研究会登録料も翌年度分と併せて使用する予定である。 また、本年度後半から執筆していた論文が完成することから、翌年度中の学術論文誌の掲載を目指す。
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