研究課題/領域番号 |
21K13910
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 將樹 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20871106)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクシオン / 余剰次元 / ダークマター |
研究実績の概要 |
標準理論の強いCP問題を解決するための有力な機構としてPeccei-Quinn機構が考えられている。しかし、この機構を実現するためには量子的には破れているものの古典的には高精度で保たれているような大局的対称性を導入する必要があり、なぜそのような対称性が存在するのかという理論的な問題がある。これを解決するためのモデルとして余剰次元を考えるものが考えられていたが、その余剰次元のサイズを保つために新たな粒子を導入する必要があるなど、モデルが複雑化する傾向にあった。本研究ではこの大局的対称性を生み出す機構と余剰次元のサイズを保つための機構を、たった一つの相互作用を導入することによって実現できることを示した。さらに対称性の破れの大きさは暗黒物質の観測から示唆されている小さい値を自然に実現することができるため、理論的に微調整の必要のない理想的なモデルとなっている。 一方で、Peccei-Quinn機構はアクシオンと呼ばれる新粒子を予言し、暗黒物質の有力な候補となっている。その存在量はアクシオンが持つポテンシャルに依存する。本研究では、ウィッテン効果を通してアクシオンに時間依存するポテンシャル項を加えて、元々のポテンシャルの天辺付近に強く捉えておいた場合にどのようなことが起こるかを議論した。その結果、断熱抑制効果が働くことによって単純な予想とは逆に存在量が抑制されることを示した。このようなポテンシャルはアクシオンの宇宙論的な問題を解決するために考えられることがあり、そのメカニズムとアクシオンの存在量には密接な関係があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は応募当初に計画していたものに加えて、より重要な研究成果も得ることができた。特にPeccei-Quinn機構が働くことによって余剰次元のサイズも同時に安定化させる研究は、一般化されたカシミール効果からインスパイアされたもので、分野を横断した、他に類を見ないモデルになっている。
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今後の研究の推進方策 |
超弦理論の低エネルギー有効理論においては大量のスカラー場が存在し、そのポテンシャル空間は非常に複雑なものとなっている。このポテンシャルのエネルギーを用いてインフレーションを実現するモデルが考えられているが、本研究ではそのポテンシャル空間においてトンネル効果を通して真空の泡ができる確率を計算し、その真空の泡がその後収縮してブラックホールになる可能性を議論する。 また、ハイブリッドインフレーションと呼ばれるタイプのインフレーションでは確率論的なダイナミクスが重要となり、その計算には高度な数値計算を必要とする。本研究ではこれを実行し、ハイブリッドインフレーションにおいてブラックホールを形成するような大きな密度ゆらぎが生成される可能性を議論する。 また、アクシオンによって引き起こされるインフレーションモデルを考えると、アノマリーの相互作用を通してバリオン数の非対称性を作り出すことが知られている。一方で、ニュートリノ振動の観測から右巻きニュートリノの存在が示唆されているが、その効果はこれまでの研究で考慮されていなかった。これを考慮し、バリオン数の非対称性の値がどのように変更を受けるかを議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年においても予想よりも悪化している世界的なパンデミックにより、海外はもとより国内であっても移動が強く制限されている。これにより、研究打ち合わせ及び国際国内会議への参加を見合わせる必要があり、そのため予定していた旅費の分だけ次年度に繰り越すことになった。次年度においては、この費用と予定していた費用を合算し、物品費および可能であれば旅費に当てる。
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備考 |
東北大学によるプレスリリースを行った。
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