研究課題/領域番号 |
21K13916
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 夏海 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60794328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ミューオン異常磁気双極子モーメント / 暗黒物質 / 標準模型を超える理論 / 大統一理論 |
研究実績の概要 |
本年度の前半に,FermiLabで行われているミューオン異常磁気双極子モーメントの測定結果が報告され,標準模型の予言値と比較して優位にずれていることが確かめられた。この結果は,標準模型に存在しない粒子とミューオンが相互作用していることを示すものであり,もしもこの観測結果が立証されれば,これまで標準模型に基づいて行われていた理論予言を見直す必要に迫られる。特に,超新星や中性子星などの天体にはミューオンが含まれることから,これらの天体の物理現象に大きな影響が及ぼされうることが予想される。この重要性を鑑みて,本年度の研究では,ミューオン異常磁気双極子モーメントの測定結果を説明可能な『標準模型を超える理論』に関する研究を行った。
具体的には,S. Heinemeyer (IFT)らとともに,μνSSM模型において現在の実験制限を逃れつつ上述の実験結果を説明する ことのできるパラメーター領域を明らかにし,将来実験における検証可能性を議論した。加えて,この模型においてトップクォー クの超対称パートナー粒子が最も軽い超対称粒子となっているシナリオを考察し,長寿命粒子探索により課せられる現在の実験制限および将来実験における探索見込みを議論した。また,J. Ellis (CERN, King's College London)らと共に,Flipped SU(5)大統一理論において上述の実験結果を説明する可能性に関して議論し,陽子崩壊実験を通じた検証可能性を明らかにした。
以上に加えて,アクシオン模型におけるU(1)対称性の重力による破れに関する研究,最小Missing partner模型において暗黒物質量およびヒッグス粒子質量の観測値を説明しうるパラメーター領域を同定し,将来の陽子崩壊実験における検証可能性を議論する研究,をそれぞれ行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,ミューオン異常磁気双極子モーメントの測定結果と標準模型における予言値との乖離を説明しうる理論に関する研究は順調に進展し,年度内に計6本の論文を出版することができた。一方で,ここで得られた結果をもとに天文現象に対する予言を与える点に関しては現在進行中であり,その点を鑑みて『おおむね順調に進展している』とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,現在進行中の,『ミューオン異常磁気双極子モーメントの測定結果を説明しうる模型を天文現象によって検証する可能性』に関する研究を完成させることを最初の目標とする。具体的には,この測定結果を説明しうる暗黒物質模型を考え,その暗黒物質が中性子星内のミューオンを通じて中性子星を加熱させる効果を探ることで,模型を検証する可能性を明らかにする。
その後,超新星由来のアクシオンを将来の大規模ニュートリノ検出器を用いて探る方法を確立させる研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,新型コロナウイルス感染症の拡大により国外出張を見合わせざるをえない状況になったため,海外における研究会参加・および研究所滞在のために計上していた旅費を使用する機会に恵まれなかった。これらの未使用分は次年度の旅費に加算し,本年度行えなかった分研究発表を多く行う予定である。
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