研究課題/領域番号 |
21K13920
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
玉岡 幸太郎 日本大学, 文理学部, 助教 (30848354)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 量子情報 / ホログラフィー / AdS/CFT対応 / 量子エンタングルメント |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、近年超弦理論の考察から新たに発見された種々の量子情報量を駆使することで、(1) ホログラフィー原理に対する知見を深める、 (2) より広範な文脈で量子情報量の応用可能性を明らかにする、の2点であった。 (1)に関しては、ホログラフィー原理における古典相関の新しい役割を発見することができた。具体的には、低エネルギーの観測者から見ると、古典相関をワームホール時空と錯覚する場合があることを示した。より詳細には、局所的な量子操作と古典通信のみで生成した量子状態の重力双対が、ワームホールの寄与を非摂動に含んでいる場合があることを Thermal Pure Quantum state (TPQ状態) や固有状態熱仮説 (ETH) を土台として具体的に示した。本研究は、従来の解析から期待される「ワームホール時空は量子相関と密接に関係がある」は、低エネルギーの観測者に話を限定すると、(少なくとも非摂動には) 例外があっても良いことを意味している。また、(2)に関しては、擬エントロピーが「2つの状態が異なる量子相に属しているかどうか」を判定することができることを明らかにした。最後に、双方に関連することとして、擬エントロピーの時間発展を重力双対を持つ場の理論で調べた。結果として、近年注目されている「半古典領域における重力理論は、場の理論のある種の統計平均と等価である」という予想を支持する結果を得られた。特に、擬エントロピーから得られた結果は、上述の予想が、エンタングルメント・ハミルトニアンにも適応できることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初1年目に予定していた重力理論のデコヒーレンス過程における解析が予想より大幅に早く完了したため、量子相関と古典相関の関係性について、踏み込んだ議論を1年目から行うことが可能になった。結果として、計画当初は全く想定していなかった「非摂動効果とある種の古典相関の関係」が明確になった。また、擬エントロピーの応用可能性に関しても、量子相やエンタングルメント・スペクトラムの分類に有用であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の進展を踏まえて、当面の間は重力理論における統計平均の役割を詳細に調べていく予定である。古典相関と統計平均に関して、1年目にかなり一般的な議論ができたが、当該分野で通常よく議論するセットアップとの関連性に関して、不明瞭な点が残っている(すなわち、より具体的な例を調べる必要がある)。具体的には、経路積分で自然に定義できる微視的状態とその重力双対に関して調べる予定である。 また、「どのような平均を取るべきか」もしくは「いつ平均を取るべきか」に関して明らかになっていない点が多い。これらの問題に関して、2次元場の理論などの単純化された模型を足掛かりにして、詳細に検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の継続により海外出張などが実質不可能であったため、当初予定していたよりも旅費としての使用額が下回ってしまった。差額分は、可能であれば海外出張や計画当初予定していなかった長期出張の旅費に充てたい。不可能な場合は、当初購入を予定していた計算機(支給額では最終年度まで待たないと購入できない)を、早めに買う可能性がある。
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