研究課題/領域番号 |
21K13930
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
後藤 郁夏人 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (50845823)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子重力 / ブラックホール / ホログラフィー原理 |
研究実績の概要 |
本研究は蒸発するブラックホール内部の時空がHawking放射のミクロな自由度から量子論の性質と矛盾しない形でどのように創発するのかとい う疑問に答えることを目標とする。近年の研究の進展により蒸発するブラックホー ルの内部の情報はHawking放射によってブラックホール外部に持ち出され、ブラックホールは量子論の基本的性質であるユニタリ性と整合的に 時間発展することが分かった。Hawking放射がブラックホール外部に情報を持ち出すメカニズムは重力の経路積分に現れるワームホール時空の構造に根ざしたものであると期待されている。 本年度はブラックホールホールの情報回復を量子重力のミクロスコピックなメカニズムとして理解する手がかりとして、上記のような重力の経路積分に現れるワームホール時空が如何に量子重力のミクロな自由度から現れるか研究した。ホログラフィー原理を用い、低次元(2次元時空上)の量子重力のモデルに双対なSYK模型を、双対時空との関係性が明白になる集団場の記述法に基づいて解析した。二つの独立なSYK模型が合った場合、二つの理論間の相関を表す集団場が非自明な値を取れば、双対にワームホールのような二つの漸近的境界をつなぐワームホール時空が存在することになる。本研究ではアインシュタイン重力による時空の記述が現れる、量子重力の低エネルギー極限から徐々にエネルギースケールを上げていくことで上記のようなワームホールに対応した集団場の配位がどのように変化するか研究した。研究の結果を重力側のワームホール時空の構造として解釈すると、徐々にエネルギースケールを上げていくにつれ、二つの漸近的境界をつなぐ滑らかなワームホール中に量子重力のミクロな詳細に強く依存した構造を持つ、時空の端に相当するブレーンが現れ、最終的にワームホール時空が完全に二つにちぎれていくことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では重力の経路積分に現れるワームホール時空の構造から、Hawking放射のミクロスコピックな密度行列の構造を決定するところまでを研究計画に入れていた。研究の進展に伴い、上記研究遂行には重力の経路積分に現れるワームホール時空が量子重力のミクロな自由度とどのように関わっているかを調べる必要があると判明し、SYK模型およびホログラフィー原理を用いてその研究に注力した。当初の最終目標までは達成できなかったが、そのために必要な解析が遂行できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は低次元量子重力をホログラフィックに記述するSYK模型を用いて、重力の経路積分に現れるワームホール時空が量子重力のミクロな自由度とどのように関わっているかを解析した。今後はこの解析をより一般の量子重力に拡張するとともに、その知見を基に、蒸発するブッラックホールから放出されるHawking放射の密度行列の構造のミクロな詳細を調べることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で当初予定していた出張がなくなり、当初予定していた旅費を使用することがなかったため。当初予定分は次年度、国内および海外出張に使用する予定である。
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