研究課題
光学的な反射によりガイド管内を輸送される超冷中性子(UCN)は壁面のナノメートルサイズの粗さによりわずかに非鏡面反射し、管内を滞留し、そのあいだに損失を受けるため、ガイド管の表面粗さはUCN輸送効率を低下させる。中性子電気双極子モーメントの測定などのUCN実験の統計量を向上させるためには輸送効率の高いガイド管が必要であり、その開発のためにUCNが表面粗さから受ける影響をより正確に理解する必要がある。今年度の実績としてはまず、前年度末に査読誌に投稿したガイド管のUCN透過実験についての論文が出版された。この論文の研究はUCNの物質波波長(60nm程度)よりも長い周期の表面粗さによる非鏡面反射を局所的な鏡面反射でモデル化したものである。この研究ではガイド管内での多数回の非鏡面反射に起因したパルスUCNの長手方向の輸送時間の変化を、表面粗さモデルを組み込んだ粒子輸送シミュレーションと比較してモデルの妥当性を評価している。我々は完成品のガイド管の品質を検査するこの手法を確立させたが、UCN反射モデルの正確さをより詳細に検証するには1回反射したUCNを2次元検出器でとらえ、その散乱方向を解析してモデルと比較するのがより直接的である。そこで我々は、前年度に入手して性能評価した2次元UCN検出器 CASCADE-Uの不具合を特定してメーカーで改修し、この検出器を用いて2023B期のJ-PARC MLF実験課題(proposal No.: 2023B0348)にて、表面粗さの異なる複数の平板サンプルに細く絞ったUCNビームを入射角45°で照射し、反射UCNの2次元分布を測定する実験を行った。そして表面粗さの増大に応じたUCN散乱の増大を見ることができた。実験結果は現在解析中であり、前年度に確立した反射モデルと組み合わせて広いスケールに適用できる表面粗さモデルを作成したいと考えている。
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Physical Review C
巻: 108 ページ: -
10.1103/PhysRevC.108.034605