研究実績の概要 |
超微粒子原子核乾板NITは、銀河系内の暗黒物質候補WIMPによって期待される数十keV程度の反跳原子核の方向を検出するために開発された超高分解能飛跡検出器である。NIT中のAgBr:I半導体ナノ結晶は、荷電粒子の飛跡を記録すると同時に高効率な発光も起こる。本研究課題はこの発光の基礎研究を行うものであり、将来的に反跳原子核の飛跡を発光から位置特定することで、光学顕微鏡のみでの飛跡探索の解析速度限界を超えた探索方法の確立を目指している。 2023年度は、前年度まで開発を行ってきた発光分析用チャンバーを用いて、反跳原子核疑似信号として10 - 200 keVのH, C, Krイオン照射時のNITの発光応答を分析した。これらの発光はα線照射時と同様であり、フォトルミネッセンスでは観測されなかった540nmの発光が主成分であることが分かった。発光強度については、イオンのエネルギー損失量よりも、NIT中での飛程に大きな相関があることが分かった。イオンのようにエネルギー損失量が大きい場合は、AgBr:Iナノ結晶当たりの発光量が飽和しており、結晶を何個貫通したかに依存するものと考えられる。 次に、背景事象として考えられているゼラチン中のC14由来のβ線に対して、発光特性からの粒子識別の検証を行った。まず、液体窒素温度で冷却したチャンバー内で動作可能なMPPC用高速プリアンプを新たに開発し、回路ノイズを大幅に抑制すると同時に、高速な発光応答の測定も可能にした。これを用いることで、α線とβ線のエネルギー損失量の違いによる発光時定数の差が明らかとなり、波形弁別による粒子識別が可能であることを示した。 今後については、α線より重いイオンとβ線の発光特性をより詳細に調べ、どの程度粒子識別が可能か明らかにすると同時に、MPPCの多チャンネル化や、NIT内のC14の低減など、より実用的な運用を目指す。
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